表示がおかしい場合はこちらをクリックしてください。
文字を設定する場合はこちらをクリックしてください。

小湊鐵道(後編)
1/7
地図を表示

 4回目の小湊鐵道は3月下旬。
 そのころ、神戸では桜はまだつぼみだったが、東京では既に満開との報道があり、小湊鐵道の沿線ではどんな様子か確かめるべく、いつもどおり出張に引っ掛けてやってきたのであった。
 結果から先に言うと、確かに東京都心部は見事に満開であったが、さすがに小湊鐵道の沿線は、まだ1週間はかかりそうな按配であった。

 前日、千葉県某所での仕事を終え、レンタカーを借りて五井へ向かい、いつものホテルに泊まる。
 翌朝、沿線の桜の様子をみながら、一気に上総大久保まで行き、8時台の下り第5列車から撮影開始。
 この列車は、普段は通学の小学生が乗っているのだが、春休みだからその姿は望みようがない。上総大久保駅の桜も、先に結果を書いたとおりつぼみは堅く、これも断念。
 一方で、駅手前の築堤の菜の花は、ちょうど盛りを迎えて、まさに黄色いじゅうたんを敷き詰めたようだ。もう撮影場所はここしかない。

菜の花の築堤


上総大久保付近の築堤にて
 返しの上り列車も同じ築堤で狙うが、アングルに迷っているうちに列車が来てしまい、中途半端な写真になってしまった。ガードレールが画面を左右に白く貫いているのも、なんとも目障り。
 さて、次の列車まで2時間ある、どうしようかと車を路肩に寄せて地図を見ていると、前から軽トラックがやってきて、真横で停まった。運転席の地元の農家らしいおじさんが何か言いたげだ。
 こちらも運転席の窓を開けて、「何でしょう?」と尋ねると、「あんたは違うかも知れないが、農道に車を置いて撮影に行くな」と苦情を受けてしまった。
 どうやら、鉄ちゃんが車を畑の進入路に突っ込んで、そのまま撮影に行ってしまうので、肝心の農家の軽トラックが入れなくなることがあるそうだ。
「私はそんなことはしませんよ」と答えたものの、同じ鉄ちゃんとして言い訳がましくて、恥ずかしい思いをする。
 地元の人に嫌われたら、撮影の楽しみも消えてしまうのだが・・・。

五角形のトンネル
 結局、撮影場所を飯給〜月崎間と決め、車を月崎駅に置き、少し飯給方へ歩いたところにあるトンネルを抜けてみる。このところ、ちょっとトンネルづいている。
 そのトンネルの坑口は五角形で、何だか宗教的なものを感じてしまって入りにくい。相変わらず臆病者。
 小湊鐵道自体も、トンネルに入るので、その前後を狙っていたのだが、これといった場所を見つけられないまま、下り列車を適当に1本だけ撮って引き上げてしまった。
 次は飯給に向かう。駅の向かいに菜の花畑が広がっていたので、そこで上り列車を撮るが、これまた今いち。なのでこのときの写真も省略。

 飯給に車を置いたまま、今度は養老川に沿って里見側へ少し歩く。そう、2月に線路沿いの道路側から撮った写真に満足がいかなかったので、今度は反対の養老川側から撮ろうと思ったのだ。
 しばらく歩いた坂下橋あたりで、ちょうど小湊鐵道に向かって大きく蛇行した養老川が見渡せる。
 例によって道路の白いガードレールが少々気になるが、沿線で養老川をしっかり写しこめる場所は意外に少ないように思う。
 列車の時間が近づいたころ、前から軽自動車がノロノロとやってきた。その様子はどう見ても、撮影ポイントを探している鉄ちゃんとしか思えない。
 案の定、近くに停車し、若い茶髪のお兄ちゃんが降りてきた。でも、手にしていたのはカメラならぬ釣竿。なるほど、ポイントはポイントでも、釣り場を探していたのか。改めていろいろな趣味があるものだと、妙に感心する。
 そのお兄ちゃんは、養老川の斜面を器用に下りて、早速釣り糸を垂らしている。こっちもぼちぼちカメラを構えよう。と、今度は軽トラックが走ってきて、運転席のおじさんと目が合ってギョッとする。上総大久保でクレームを受けた農家のおじさん! なぜ、こんなところで?
「いや、この車は私のじゃなくて、釣り人のですから」というのは、さらに言い訳がましいので、軽く会釈だけして、やりすごしたのであった。

養老川に沿って



ローカル私鉄紀行目次へ 次へ
表紙へ

 本文のフォント(文字)を設定できます。

 大きさ→

 行 間→

 濃 淡→