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長崎電気軌道


3.浦上車庫

 今年(2000年)2月は、11日の建国記念日が金曜日のため、13日の日曜日まで3連休になる。この連休を使って、2回目の取材に出かけた。前ページの写真のとおり、ランタンフェスティバルで走る花電車に合わせたこともある。
 長崎電軌の本社も、土曜日は半ドンと聞いていたので、12日に再訪のアポイントを入れてみたが、さすがに連休だそうで、残念ながら断念。そのかわり、前回時間があまり取れなかった工場見学の了解をもらう。「工場には見学に来ることを伝えておきますから」とのことであった。

 当日、約束の10時少し前、予定どおり浦上車庫前の電停に降り立つ。
洗車中の360形
洗車中の360形。
もうひとり若い女性も作業していたが
恥ずかしがって、隠れてしまった。

 ただ、そのままずかずか車庫に入りこんで工場へ行くのも気が引けるので、電停脇の事務所を訪ねる。中には数人の職員がいた。その中のひとりに、
「あの、今日、工場見学をお願いしていた者ですが」と言うと、
「さあ、聞いとらん」とにべない返事。
「本社の方から、工場には伝えておくとの返事をもらってるので、直接行ってもいいでしょうか」と手紙を見せても今ひとつ信用してもらえないようだ。
「いや、勝手に行ってはいかん。ちょっとこちらへ」
 と、その職員に連れられて工場へ。なかなか厳しい。
「見学したいという人が来とるが、何か聞いているか」と工場の年配の職員に確認し、
「はいはい、聞いていますよ」との答えでようやく納得したようだった。
「じゃあ、くれぐれも事故のないように」と念を押して、事務所に帰っていった。

「遠くからご苦労様です」
 工場のHさんは、最初の職員とは打って変わって、人なつっこい笑顔で迎えてくれてた。
 よくよく聞いてみれば、本来今日は工場も休みで、Hさんなどの検査係だけ出勤だそうだ。考えてみれば、電車は毎日走るのだから検査に休みのないのは当然である。毎日7両ずつ検査するとのことであった。
 そんなHさんには、検査の話から、1982年(昭和57年)の長崎大水害のときの苦労など、いろいろなお話を伺った。さらには、ブレーキシューやパンタグラフのスリ板などの部品を出してもらったり、電車の点検口を開いて説明してもらったり、本当にお世話になった。
 Hさんは人当たりがいいので、こちらも話しやすくて、ついつい調子に乗って無理をお願いしてしまい、今になって反省している。
 とどめは、元々運転士だったというHさんに、運転の仕方まで教えて欲しいと頼んでしまったことだろう。
「カムスイッチを入れて、ハンドルを前進にして、ブレーキを緩めて・・・」
 Hさんは嫌な顔ひとつ見せず、実車で丁寧に説明してくれた。
 話が花電車に及んだときだった。「車庫内では撮りにくいでしょうから、外へ出しましょうか」と言われ、さすがにそれは遠慮して、花電車が出庫する15時前に再び訪問することにして、一旦工場を後にした。

 14時半頃、再び浦上車庫を訪れてみると、既に花電車が庫外でスタンバイしていた。
街中での勇姿
街中での勇姿

 花電車の写真を撮り、Hさんと話をしていると、始めに会った職員が「なんだ、まだおったのか」なんて言いながらやってきた。
 何事かと思ったら、その職員も元運転士だそうで、今日は臨時で花電車を運転するとのこと。
「こんな電車運転するの、入社してから初めてだよ」先ほどまでとは違って、ずいぶん気弱になっている。
 「パラは入らんけんね。ブレーキも早めに」とのHさんの注意事項や、
 「吹きっさらしで寒いけんな、ジャンバーを忘れずに」との同僚のアドバイスを神妙な顔をして聞いている。最初はとっつきにくいと思っていたその職員であるが、そんな姿を見ると、急に親近感がわいてきて、
「街中での勇姿を撮りますから、がんばってくださいね」と声をかけてしまうのだった。
 発車準備で慌しくなり、部外者は邪魔になりそうな気がしてきたので、Hさんにお礼と別れを告げ、車庫を出た。
 まず車庫から本線へ出る姿を撮ろうと、浦上車庫前電停の横で待ち構える。すると、さきほどの職員がこちらへ駆け寄ってくる。また何か小言を言われるのだろうか(^^;と思わず少々身構えると、
「これ、花電車の時刻表」
 と言って、運行表を渡してくれた。な〜んだ、やっぱりいい人なんだ(^^)

 長崎の街は、連休中のランタンフェスティバルということもあって、大勢の観光客で賑わっていた。
 路面電車も夜更けまで満員の乗客を乗せて大活躍である。その中でも、時折現れる花電車は、ひときわ『ハナ』やかで、たくさんの人々の注目を浴びて、『ハナ』高々、走りまわっていた。(お粗末)

【2000年2月現地、10月記】


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並列を意味する『パラレル』の略。
コントローラーの操作で、低速時はモーターが直列(シリース)、高速時は並列につながれる。
ただ、花電車は高速を必要としないので、並列に入らないようにされていたのである。

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