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 急行『八甲田』の入線1時間前には来ようと思っていたのだが、例によってルーズな私は入線直前に上野に着いた。
 それにしてもあわただしかった。家を出て、まず三鷹のS氏の下宿へ、夏の旅行の借金3万円を返しに寄ったが不在で、少々危険だが、ポストに金をつっこみ、駅へ戻ったら、はいてきた長靴が破けてしまった。 吉祥寺のサンロードの入口に靴屋があったのを思い出し、しかたなくそこで長靴(2200円也)を買った。
「エッ、履いていくんですか」と店の人が驚いていた。この日は雨も雪も降っていない。雪国へ向かう自分は長靴は当たり前だと思っていたが、考えてみれば驚かれるのも当たり前だ。切符も買ってなかったので、サンロードの端の近畿日本ツーリストまでバカボコと走った。ボロショルダーバックと長靴を履いた男が駆ける様は大いに人目をひいた。
ツーリストで予定どおり表紙付きの周遊券を求め、またバカボコと駆け戻り、電車に乗り、好奇の目に耐えながら上野に着いたのである。
 落書き帳に今夜立つことは書いておいたのに、誰も見送りに来ない、薄情な奴らめ、こんなことなら彼女でも呼んでおくんだった、なんてはったり書くだけみじめェ。おまけに『八甲田』は12系、味気ないのでとんかつ弁当を食っていた。しかし夕食が駅弁というのも味気ない話だ。
 発車はやや遅れた。しばらくすると、若い男が2人、前の席に座った。他のBOXはほとんど1人しか座っていない。つい露骨にいやな顔をしてしまった。それに相手も気づき、なんか悪かったみたいだねと話している。 しかし、数あるBOXの中から私のBOXが、つまり長靴を履き、ボロショルダーを持った異様な私の席が選ばれたのである。やはり私には外面だけでなく、内から発する人徳にあふれていたのだろう、と勝手に解釈し、気をとり直して話しかけた。
「どこまでゆくの?」
「水沢までです」
「水沢?」
 恥ずかしながら、水沢と聞いても水沢アキしか思い出せなかった。 別にファンでもないが、私が初めて雑誌GOROを買ったときのグラビアが水沢アキだったのだ。余談ながら竹下景子のほうは買いそびれた。
「一ノ関の先です。あ、でも一ノ関ってわかるかなあ」
「ああ、一ノ関ね、でも真夜中じゃないの、そのへんは」
「エエ、タクシーで帰ります」
 2人とも、東京へ受験のために出てきたそうだ。それにしても2人の会話があまりにも無垢で素朴なのには驚いた。
「ウワァー、国電に抜かれたよォ」
「この『電車』よく揺れる、客車の揺れみたいだ」
と話す彼らはまるで小学生のようで、始めはこっちがおちょくられているのかと思ったけれど、イキイキと語る口調は冗談ではなさそうだ。そんな素朴さを大切にして欲しいなんて思ってもみたが、それはいなかっぺとバカにするのと同じ高慢な考え方だろう。仙台で車内がすいたので、彼らは他のBOXへ行ってしまった。なんとなくさみしくなるから不思議だ。
 ガックン、目を覚ますと午前2時すぎ、水沢であった。彼らは降りたかなと見ると、なんとグーグー眠りこけている。おい、水沢だぞ、と起こすと、ガバッと飛び起き、あたふたと荷物をまとめて飛び降りて行った。元気でな!
急行ニセコ
急行ニセコ


 ♪上野発の夜行列車降りたときから、青森駅は雪の中・・・・・
 といっても青森に着く前から当然雪である。なんか白けるなあと思いながら、初めての青函連絡線へ向かった。『松前丸』、夜行の寝不足を取り戻すべく、ずっと寝ていた。
 函館。生まれて初めて北海道へ足を踏み入れたというのに、大した感激もなく、昼メシを食い、客車急行『ニセコ』で小樽へ。ここから釧路行きの夜行鈍行『からまつ』に乗った。予想どおり札幌からは帰宅の人々で相当混んだ。となりにOL風の人が座り、眠ってしまった。きれいな人だな、仕事で疲れたのかななんて思いながら見つめていると、カパッとこちらを向き、焦る私に「ここどこですか?」思わずほおのゆるむ言葉であった。なぜか北海道を感じた。『からまつ』も岩見沢に着く頃にはがらがらであった。車内は少々寒く、あまり眠れなかった。



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