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オープンデッキ客車(和気にて)
このときは、よほどスランプだったのか、この写真と
『夏の旅行』のページで使用した同アングルの
記念写真のたった2枚しか撮っていない。
 1982(昭和57)年5月、もう何度目になるだろう、片上鉄道に出かけた。
 そのときは既に社会人2年目。当時、経理に近い仕事をしていたこともあって、忙しい決算がようやく終わって落ち着いた頃であった。でも、新年度の仕事が始まると、1年前の新入社員のときの繰り返しのように思えて、なんとなくつまらない。決算を1回経験しただけで、一人前になったつもりでいたのである。今から思えば、たった1年で何がわかるのか、恥ずかしい限りだが、得てして2年目に陥りがちなパターンである。
 当時はそんなことに気づく余裕もなく、何か気分転換をしたいな、ということで、片上鉄道のオープンデッキ客車に乗ることを思い立ったのであった。

 和気に着いて、発車までしばらく時間があったので、駅前の喫茶店に入る。その3年前、片上鉄道再々訪で、「阿蘇・くにさき」の時間待ちのために寄った店だ。残金が122円になったのも、金がないことがわかっていながら、ここでお茶を飲んだせいである。
 扉を開けると、3年前と同じ光景。お客は誰もおらず、店の若い夫婦(だと思う)が仲むつまじく談笑している。3年前も、自分がお客であることも忘れ、なんだかお邪魔虫みたいで悪いな、なんて思ったくらいだ。
 今回も1時間くらい時間をつぶしたのであるが、結局1人もお客は増えず。お世辞にも流行っているとは言い難い。でも、当時独身だった私の目には、2人の姿はなんともうらやましく映ったものである。
 で、結婚した今はどうかって? う〜ん、もう新婚時代はとっくの昔だしね。

オープンデッキ客車(和気にて)
同じアングルの写真だけでは愛想がないので、
翌年、やはり決算後に出かけて撮った混合列車の
写真を載せてみた。(毎年片上鉄道で気分転換)           
ただ、せっかく山の上に登ったのに、アングル、
シャッタータイミングとも今いちなのが残念。
 いよいよオープンデッキ客車に乗る。いつものとおりデッキにもたれ、ジョイントの音をBGMに流れる景色を眺める。至福のひとときである。
 ただ、その静かな時間は長くは続かなかった。確か一駅目の本和気駅で、下校の高校生たちが大勢乗り込んできたのである。それも、まだ車内に空席があるのに、デッキに女子高生3人が残り、道行く友達にワーワーキャーキャー手を振って、文字どおり三人寄れば、なんとやらである。
 せっかく、デッキでひとり「仕事とは」「人生とは」と思索に耽るはずだったのに、というのはウソである。そんな高尚なものではない。そもそも女子高生は嫌いじゃないし、しばらく彼女らの会話に耳を傾ける。こちらから彼女らに話しかけたり、写真を撮ったりはしていない。これはホントである。やっぱりちょっと気分が滅入っていたせいかも知れない。
「ねえ、あれ見て、靴脱いでる」車内で靴を脱いで座っているおっさんを見て、彼女らが叫んだ。
「お座敷と間違えてるんじゃないの」
 そして歌いだしたのが「お座敷小唄」。それもすべて歌いきってしまった。「おいおい、俺だって歌詞を全部は知らないぞ」と心の中でつぶやく。
 勢いづいて「松ノ木小唄」が続く。次は一転して当時の流行歌、田原俊彦だったか、近藤真彦だったかの歌。ジョイント音のBGMもいいけれど、彼女らの合唱は、何とも楽しいBGMである。いつしか沈んでいだ心も晴れて、愉快な心持ちになってくる。
 ふと、線路を見ると、なんとコンクリート枕木になっている。「おお、PC枕木だ」と思った瞬間、
「あ〜っ、ナウい線路!」と女子高生が叫ぶ。思わず苦笑い。
 ついに、吉ヶ原まで約40分、騒ぎとおしだった。下車してからも、先輩に向かって、
「せ〜の、失礼しま〜す!」と3人声を合わせ、元気いっぱい。

 そんな女子高生たちが下車して、嘘のように静まり返った列車は、吉ヶ原を出ると、次はもう終点柵原である。
 以前、同じようにこの列車で来たとき、駅員が心配そうな顔で駆け寄ってきて、「どちらかお泊りですか」と尋ねてきたことを思い出す。
 そう、その日の柵原からの和気方面行きの列車は、既に終わっていたのである。オープンデッキ客車は折り返すことなく、翌朝の通勤・通学列車用に吉ヶ原まで回送されるだけなのだ。
 ただ、吉ヶ原始発なら、まだ上り列車がある。かつて、駅員には「吉ヶ原まで歩いて戻りますから、大丈夫です」と答えて安心してもらったが、今回も一駅歩くのは同様である。
 夕暮れの町へ出ると、初夏の風が心地よい。さきほどの女子高生たちに元気もわけてもらって、爽快な気分で吉ヶ原へ向かったのであった。



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