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甘木・秋月へ

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西鉄甘木駅
西鉄甘木駅も昔のままの風情を残す。
 秋月からのバスを終点ひとつ手前の西鉄甘木駅前で降り、いきがけに見かけた駅向かいの喫茶店で昼食をとる。
 昼食後、墓参りを済ませ、ここで初めて『菓秀 桜』に電話を入れる。
 電話に出たのは叔母であった。従弟が出れば、「娘に頼まれてシフォンケーキを買いに来た」と軽口をたたくつもりであったが、叔母にはありていに出張で来た旨伝える。
「それで今どこにおるとね」
「もう甘木に着いてますんで、あと10分くらいで行きます」
 と答えて、商店街に向かうと、「さよならアーケード」の看板が目に入った。どうやらアーケードを撤去することになったようで、一部では既に工事も始まっている。維持費の問題だけでなく、シャッターを閉ざした店が増えて、アーケードではかえって暗く感じようになったこともあるのだろう。甘木に限らず、各地でそういうことが起きている。

本通り商店街

 駅側からアーケードに入ると、『菓秀 桜』は、かなり奥まったところになる。店先では、叔母と従弟の奥さんが迎えてくれた。
 早速、娘のリクエストのシフォンケーキと『風香る』、会社用のみやげ、そしてもちろん『甘木焼』を注文。
 甘木焼の持ち帰り用に、100円均一で買ったタッパー、それも3リットルの一番大きなものを差し出す。
「自分で持ってきたと?」と叔母が笑う。
「だって、甘木焼は湿気るって(従弟の)J君が言うから」と言い訳する。
「ところで、そのJ君は?」と尋ねると、なんと秋月店に行ってしまったという。
 えっ?秋月店は休業では?と、思わず言いかけた口をふさぎ、「そうですか、それは残念」とだけ伝える。
 秋月に行ったと知れば、すれ違いになったことを気にされてしまうと思ったのである。そもそも、こちらも変に気を遣って別に昼食を取ったりするから、すれ違ってしまったのだ。
 支払いの段になって、1万円を差し出すと、お釣りがどう考えても多すぎる。
「よかよか、うちはもうかっとるけん」と叔母に押し切られ、しかたなく受け取る。いかん、また借りが増えてしまった・・・。

 こうして14時すぎに店を出る。その日は休暇は取っていたものの、夕方会社に顔を出すつもりだったので、そろそろ博多に向かわないと間に合わないのだ。
 でも、店を出て、すぐに気が変わった。もともと従弟に会いに来たのに、そのまま帰ってどうする。もう一度秋月へ行こう。
 新幹線の予約を変更し、会社には寄らない旨メールして、甘木駅前から再びバスで秋月へ向かう。こういう感情に流された衝動的で無計画な行動は、我ながら自分らしいと思う一方で、大きな欠点でもあるとバスの中で自らを省みる。

杉の馬場
杉の馬場に咲く紫陽花。
でも、桜の季節以外は訪れる人は少ない。

 朝と同じように、秋月の停留所で下車して、田んぼを抜けて杉の馬場に出る。
 「菓秀 桜」秋月店に近づくと、電話中の従弟の姿がガラス越しに見える。こちらに気づき、特に驚いたふうもなく、手を振っている。もしかしたら、本店から連絡がいったかな、と勘ぐる心中を読まれたように、「今、幸治君が来とるって電話があったとこたい」と従弟が言う。「そうかあ、いきなり来て、びっくりさせようと思ったんだけどね」と答える。
 仕事のこと、子供のこと、とりとめのない話をしばらく続け、閉店までいてくれたら車で甘木まで送る、という彼を制して、バスで帰ることにする。
 そうそう、その前に本店で買いそびれた『おいも』を買おう。代金を差し出すと、また受け取らない。
 「さんざん本店でおまけしてもらったから、これは受け取ってよ」と懇願しても、じゃあこれは自分からだ、言い張る。
 そういうところは叔母譲りだ。本店とまったく同じやりとりになってしまい、やはりこちらが根負けするのも同じ。借りはさらに積み重なる。

菓秀 桜

 帰りは、杉の馬場入口にある郷土館前の停留所でバスを待つ。ちょうど下校時にあたり、秋月中学校の生徒たちが、みな「こんにちわ」「こんにちわ」と挨拶をくれて通り過ぎていく。
 気持ちよく中学生たちと挨拶を交わすうち、甘木行きのバスが、細い道をゆっくり向かってくるのであった。

【2011年8月記】
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