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小城


 きっかけは偶然と気まぐれであった。
 所用で遠路佐賀県の多久市のとある会場へ出かけた。会場は唐津線の東多久駅から歩けないこともなさそうな距離にあるが、あいにくの雨のため、タクシーで向かう。
 所用を終えたのは15時半ごろ。東多久発15時40分発の佐賀行きにはぎりぎり間に合いそうもない。次の列車は1時間後。それなら雨も小降りになったことだし、東多久駅まで歩こうと会場を出ると、目の前にバス停を見つけた。ダメもとで時刻表を確かめると、やはり本数は少ないのだが、都合よく次のバスは数分後、それも佐賀駅行きなので、唐津線を待つより早く着けそうだ。神戸〜東多久の往復乗車券を買っていたので、ちょっともったいないなと思いながらもバスに乗る。すると、予想以上に料金表の上がり方が早く、佐賀まで行ったらいくらになることやら。これはいかん、どこか唐津線の駅があるところで降りよう。こうして小城のバス停に降り立ったのであった。

 初めて足を踏み入れた小城の町。見渡すと、目に入るのは羊羹の店ばかり。これはどうしたことだ?不思議の国に迷い込んでしまったか。
 もっとも、甘党だから羊羹は好都合である。引き寄せられるようにふらふらと街道沿いの大きな店に入ると、とてもしゃれた店内に、様々な羊羹がディスプレイされている。しまった、高そうな店に入ってしまったと、我に返ってつい現実的なことを考えてしまう。
 若女将?に初めて来たと言い訳して、お勧めを問うと、
 「みなさんこちらを買われますね」とカウンターの一番目立つ場所に積み上げられた羊羹を示す。
 「お、おいくらですか?」何千円とか言われたらどうしよう・・・。
 「700円です」
 ほっとして「これください」と買い求めたのであった。

 街道から駅まで1キロほどの道のりを歩く間にも、羊羹店がいくつも並んでいる。一方で、看板はあるのに店内は空っぽで、廃業したと思しき店もある。今の時代、羊羹だけで生計を立てるのは難しいのかも知れない。おまけにこれだけ集積しているし。
 小城駅に着いてみると、これも不思議な雰囲気だ。まさに国鉄らしい風情の古い立派な駅舎なのだが、中に入ると新しい。後で調べたら、2015年に改修したそうで、3億円以上かけたというだけあって、明るい待合室は開放感があって心地よいのである。
 列車まで少し時間があるので、外の喫煙コーナーで一服。すると、いかにも今時の若者という感じの警備員がやってきた。思いもかけず「こんにちは」と声をかけられ、慌てて挨拶を返す。どうせ挨拶などしないだろうと外観で決めつけてしまった自分を恥じる。聞けば、駅前の下水道工事の交通整理をしているそうだ。
 「雨の中の警備は大変だね」と言葉をかけたのをきっかけに、彼が身の上話というか、愚痴のようなことまで話しかけてくる。迷惑というのではなく、微笑ましさを感じて、そうだ、ここは九州だったと改めて気づく。この人なつっこさは、まさに九州ならではなのである。

 佐賀行きが到着する時刻が近づいたので、ホームで待ち受ける。やってきたのはキハ47の2両編成。最近はローカル私鉄ばかりに出かけていたが、久しぶりの国鉄型もいいじゃないか。
 カメラは持ち合わせていなかったので、到着したキハ47をスマホで何気なく撮影。仕事か買物帰り風のおばちゃん、スーツの女性は就活あるいは外回りの営業だろうか、制服の女子高生(中学生かも)、よそ行きの装いの女性。図らずも、四者四様の女性たちが一枚の写真に納まった。


小城駅にてshadowshadow


 帰宅したのは深夜なので羊羹はお預け。翌日、先に食べたカミさんが「田舎の羊羹ね。でもこういうのも好きよ」と感想を洩らす。
 どれどれ、口にしてみると、なるほど、もっちりむっちりとした食感は上品とは言えないかも知れないが、なかなかの食べ応えだ。さすが売れ筋の羊羹だけのことはある。
 後でわかったことだが、小城の町は羊羹が有名で、20店舗以上あるという。そうと知ったら、無性に他の羊羹も試してみたくなるのであった。



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