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「静」と「動」

 もったいぶった題名だが、要は「ものぐさ」と「まめ」な人間の話である。
 今年(2014年)1月3日朝、有楽町駅付近の火災で東海道新幹線などが5時間余り止まる騒ぎがあった。間の悪いことに、その日はたまたま東京の家にいて、15時40分発の「のぞみ185号」で神戸へ帰る予定にしていたのである。
 お昼頃、新幹線運転再開の報を聞いて、ダイヤも回復するだろうと15時半ごろ東京駅へ。しかし、改札は列車待ちの人たちであふれかえっている。見れば出発案内の電光掲示板には、まだ13時台の列車が並んでいて、がっくり。
 普段なら、もっと本数を間引いたのだろうが、お正月の多客期なので、極力運休は避けて、遅れ覚悟で運転することにしたのかも知れない。
 さて、どうしたものか。そうだ、エクスプレス予約で変更してみようと13時台の列車を入力すると、「過去の時刻を指定することはできません」とつれないメッセージ。「過去の列車が発車してないじゃんか!」と、ここは関東弁でぼやく。
 窓口で変更しようにも、気が遠くなりそうな長蛇の列。混乱時こそ、エクスプレス予約が柔軟に対応すれば、窓口の列も、少なくできるだろうに。
 「指定券をお持ちの方が自由席に乗られた場合は半額返金します」とのアナウンスも聞こえてくるが、吹きさらしのホームに並ぶのも気が進まない。そもそも2時間以上遅れれば、全額払い戻しになるんだし、まあいいや、時間をつぶそうと喫茶店へ直行。このあたりは、何でも先送りにするものぐさ癖の真骨頂である。

 それで思い出したのが、以前、部下と一緒に神戸から岐阜へ出張したときのこと。朝、新神戸を発ったものの、関ヶ原付近の集中豪雨のため新大阪駅で止まってしまったのである。しびれを切らした部下が「在来線で行きましょう」と進言してくる。その部下は、頭の回転が速いだけでなく、行動に移すのも早いタイプで、私とは正反対の性格と言っていい。
 だからではないが、指定席を放棄して、座れるかもわからない在来線をちんたら乗り継いで行くのはおっくうだ。趣味で鈍行に乗るのとは訳が違う。その間に雨もやんで、新幹線に抜かれるのが関ヶ原、いや関の山だ。
 かの家康は、鳴くまで「待って」関ヶ原で勝利を収めたではないか。武田信玄も「動かざること山の如し」だ。ん?意味が違う?
 しかし、部下は岐阜までの在来線の乗り継ぎ時刻も調べ、「もう行かないと」と急かしてくる。結局、彼の気迫に押されて在来線に乗り換え、岐阜へ向かう。
 途中、関ヶ原付近で併走する新幹線の築堤を未練がましく見上げるが、抜かれる心配は杞憂に終わった。その日、新幹線の運休は昼すぎまで続いたのである。現世の関ヶ原の合戦は、見事に「疾きこと風の如く」動いた部下の勝ちという落ちであった。

 それで「待ち」で臨んだ「のぞみ185」号。ぎりぎり払い戻しを免れる1時間50分遅れで東京駅を発車して、苦笑い。乗客は新横浜発車時点で、自分も含めて1両に5人しかいない。みな早めの新幹線に変更するか自由席にしたのだろう。逆に言えば、私と同類が5人、ものぐさ率5%といったところである。予想以上に少数派だ。やはり岐阜出張の例といい、もっと早く動くべきだったとちょっと反省。
 乗客が少ないせいか車内は寒く、ジャンパーを膝にかけてしのぐ。途中、京都、新大阪と入線待ちを強いられて、新神戸には3時間遅れで到着。特急券を払い戻せたことが、せめてもの救い?か。

 仕事始めの職場でそのことを話題にすると、ある別の部下が「実は私もその日、東京から帰ったんです」と言う。
 ディズニーランドで遊んで舞浜に泊まり、3日朝、神戸へ帰ろうとして巻き込まれたそうだ。ただ、そのとき彼の取った行動は、究極の「動」と言えるもの。
 品川折り返しの新幹線を目指すが、東京〜品川間は、山手線などの在来線も止まっているので、足は地下の横須賀線しかない。舞浜から京葉線で東京に出ても、乗り換えには難儀することが予想される。それならばと京葉線で全く逆の蘇我へ行き、横須賀線直通の総武線快速で品川へ向かったのだという。途中の東京駅は案の定、押しあいへしあいの大混乱。それが品川に着くと、折り返しの新幹線はまだ乗客が少なく、余裕で自由席に座って帰れたそうだ。
 いやはや、急がば回れと言うけれど、ここまでの行動力に舌を巻く。実はこの部下とは、夢の跡編姫路モノレールで取り上げた117系とのたまった男である。やはりこの男、只者ではない。



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