いつか撮りたいと思っていた列車を狙って弘前までやってきた。
弘前に泊まった翌朝、奥羽本線で大鰐温泉へ向かい、まずは弘南鉄道の1日乗車券(大黒様きっぷ)を買おうと出札口に赴くと、「途中駅で車両故障があって、発車が遅れますがよろしいですか」と言う。前夜の大雪で、JR奥羽本線もダイヤが乱れていて、ちょっと嫌な予感はあったのだが、それが当たってしまった。
う〜ん、しかたない、弘前に戻って先に弘南線へ行くか、と出札口から引き下がると、居合わせた女子高生が携帯電話で「弘南線も止まってる」と話す声が耳に入った。まさかと再び出札口で尋ねると、「弘南線はポイント故障で復旧の見込みがありません」とのこと。これで腹は決まった。「1日券をください」
いつ発車するかわからない7000系の寒冷地仕様の扉を開き、車内に入って「閉」ボタンを押すと、雪でも噛んだのか、いったん閉まりかけた扉が開いてしまう。何度やり直しても同じだ。開けっ放しでは寒いので、力尽くで扉を閉めていると、思いがけず女子高生が手伝ってくれた。さっき携帯で電話していた子だ。二人でなんとか閉めきるが、「でもまた開いちゃうんですよね」と女子高生が言う。そうはさせじとしばらく扉を押さえ込み、頃合いをみて手を放すと、扉も観念したのか微動だにしない。「OK」と女子高生に目配せして、座席に腰かける。
天候が劇的に回復し、晴れ渡った空の下、前方に停車中の電気機関車ED221の雪下ろしが始まった。ラッセル車のキ105からは、ストーブの薄茶色の煙も立ちのぼる。これは間違いなく運転する!
そう、狙っていたのは、この除雪列車なのであった。
待機時間は長くなることを覚悟していたが、発車したのは意外に早く、ほぼ1時間後のこと。大鰐線は1時間ヘッドだから、ちょうど1本間引いた感じだ。
車内から、撮影ポイントと考えていた沿線の小道を見ると、どこも除雪されておらず、雪に埋もれている。さすがにその中を自らラッセルしていくような根性は、もう持ち合わせていない。3つ目の石川プール前で下車し、駅の傍の踏切というお手軽ポイントで、ラッセル車を待ち受けることにする。逆光かつアングルも厳しくなってしまうのはしかたない。
その間、大鰐行の列車を踏切から少し離れて撮る。雪景色の中を陽に照らされて走る姿は、とても清々しい。ラッセル車もこの角度で撮れればいいのだが、残念ながら逆方向だ。
ほどなく、一直線に見通せる隣の鯖石駅に、真っ黒な車両が到着したのが見えて、思わず武者震い。こんなに興奮したのは久しぶりだ。ただ、構内の除雪をしているのか、なかなかこちらに来る気配がなく、じらされるのがまた憎らしい。
そのとき、猛スピードで車が踏切にやってきた。見れば「わ」ナンバーで、レンタカーと知る。降りてきたのはやはり鉄ちゃん。他人に構う暇などないオーラを出しているので、黙って様子を見ていると、彼もアングルが難しいと感じたのだろう、そそくさと車に戻り、また猛スピードで走り去っていった。おいおい、雪道でそんなにスピード出したら危ないぞ、それにそっちの道を行っても、撮影できる場所はないはず、と言いたかったが、伝えようもない。
ようやくラッセル車が鯖石駅を発車した。すると案の定、さっきのレンタカーが戻ってきて、踏切を渡り、逆方向へ猛進していく。さて彼は撮影に間に合ったのだろうか。
それで、肝心のラッセル車。縦位置で引きつけて撮るが、停止票が入ってしまい、駅で撮ったのがばればれなのはご愛嬌。