「19時45発、ANA409便仙台行きにご搭乗の宮田幸治様、出発のお時間が近づいておりますので、至急搭乗ゲートまでお越しください」
余裕を持って会社を出たはずが、神戸空港に着いたのはぎりぎりであった。あたふたとゲートに駆けつけ、携帯電話をかざす。滅多に飛行機には乗らないので、ANAのSKiPは初めて。ちょっと緊張するが、無事ゲートを通過し、レシートのような搭乗券を受け取って機内に入る。森光子じゃないが、「あれ、乗れちゃった」である。
2006年11月某日、珍しく仙台出張の予定が入った。
仙台まで行けば、今年(2007年)3月に廃止されてしまう、くりはら田園鉄道は目と鼻の先である。
実は、くりはら田園鉄道へは栗原電鉄時代を含めても行ったことがなく、このまま廃止されてしまうのかと諦めていただけに、この機会を逃すわけにはいかない。そこで冒頭のANA409便で出張の前夜から仙台入りし、くりはら田園鉄道に立ち寄ることにしたのである。
その日は仙台から東北新幹線でくりこま高原駅まで行き、駅前のホテルに宿泊。翌朝6時にタクシーを呼んでもらい、くりはら田園鉄道若柳駅に向かう。
若柳駅は町外れに近い場所で、朝もやの中、静かに佇んでいた。
この日は本来出張なのだから、昼には仙台に戻らねばならず、数時間しか時間が取れない。それでも、再び来ることはできないだろうから、少なくとも全線乗車と、鉄道名にちなんでなるべく多くの列車を田園地帯で撮りたいと考えていた。
そこで予めあれこれ考えて立てた行程は、その若柳駅から尾松駅へ列車で向かい、そこから終点の細倉マインパーク前まで撮影しながら歩き、取って返して列車で石越まで一気に全線乗車するというものであった。
田園地帯での撮影の定番ポイントは、沢辺〜津久毛間の国道4号線上などであろうが、全線乗車と両立させるには、途中下車して再び列車で移動するとロスが生じてしまう。それで終点間近の駅で下車して歩けば、終点で折り返してくる列車も効率よく撮れると考えたのであった。
それならもっと終点寄りの鶯沢なり鶯沢工業高校前で下車すればと言われそうだが、そこまで行ってしまうと田園地帯というより山間部に入ってしまうため、ぎりぎりの尾松駅としたのである。
ただ、そのおかげで尾松駅から終点の細倉マインパーク前まで、路線距離でも6.6キロあり、撮影しながら歩いたらおそらく7〜8キロになるはず。例によって革靴、スーツ姿という出張スタイルで歩き通せるのか、ハードスケジュールの中でも、それが最大の懸念材料なのであった。
予定どおり、まずは若柳発6時31分の下り始発の第1列車に乗り、尾松駅で下車。
さあ賽は投げられた、泣いても笑っても、細倉マインパークまで歩きとおさねばならない。
最初の撮影は、乗ってきた列車の折り返しの第4列車。地図であらかじめ尾松〜鶯沢間に築堤があることはわかっていたので、撮影ポイントは少し引いて田園地帯らしくするつもりであった。ところが線路沿いの雑草の背が思いのほか高くて足回りが欠けてしまうため、やむなく踏切での撮影となってしまった。
次の下り(第3列車)もほぼ同じ場所で撮影。下り列車は東からやってくるから逆光になってしまうのはしかたない。