嵯峨野観光鉄道。そう呼ぶより保津峡のトロッコ列車と言ったほうが通りがいい。
1991(平成3)年、山陰本線の旧線を利用して開業し、運転されるのはトロッコ列車だけという、その名のとおりの純観光鉄道である。
京都という立地のよさに加え、料金も片道600円とリーズナブルなので、シーズン時には予約なしでは乗れないくらい人気がある。
有名な嵯峨野観光鉄道だから、私自身も子供を連れて何度か乗りに来たことはあるが、今回はひとり、列車の撮影目的でやってきた。もっとも、この日は叡山電鉄との掛け持ちで、嵯峨野観光鉄道に向かったのは、もう昼過ぎであった。
撮影は、保津峡駅付近と決めていた。本来は嵯峨野観光鉄道で行くべきなのだろうが、乗ってしまうと撮れない、といういつものジレンマで、結局JR山陰本線で保津峡に向かう。
JR保津峡駅のホームからは嵯峨野観光鉄道が渓流沿いに走る姿が一望できる。タイミングよく保津川下りの船もやってきたので一緒に撮る。実はこの写真、本に載せたものとほぼ同じアングルであるが、ここで撮ったのは1列車だけなのでご容赦を。なおかつ、列車が小さすぎるので画像も大きなものにした。
ここから嵯峨野観光鉄道のトロッコ保津峡駅は、同じ駅名でもかなり距離があり、徒歩で優に15分以上かかる。
最後に吊橋を渡ってトロッコ保津峡駅に着く。このアプローチは当たり前だが旧線時代と変わらない。
ただ、妙ないで立ちの男が二人、つり橋の袂を占領し、寝そべって漫画を読んでいる。写真で橋の右側に見えるよしず張りの一角である。
何やら所帯道具も並べられていて、何をしているのか、と怪訝に思ってちらっとのぞくと、『鬼の衣装』と書かれた箱が目に入り、疑問は氷解。トロッコ列車に現れる酒呑童子の待機場所であった。
ここでご存じない方もいると思うので、ちょっと説明を。嵯峨野観光鉄道では、トロッコ保津峡〜トロッコ亀山間で、酒呑童子に扮した男性が列車に乗り込み、観光客相手に愛嬌?を振りまくという趣向が用意されている。酒呑童子は乗りもよくて車内がいっぺんに華やぎ、なかなか楽しいものだ。
ただ、舞台裏をこうもおおっぴらに見せられると、少々興ざめな気分である。
トロッコ保津峡駅のホームで、上り列車を待ち受ける。この日は祝日だったので、日の丸を掲げてDE10型機関車が5両のトロッコ客車を牽いてやってきた。
次の下り列車は定番ポイントの跨線橋の上から撮る。停車中の列車に、件の鬼が素顔のまま、こそっと乗り込んでいた。鬼の面は車内でかぶるのだろう。
これで列車撮影を終えて、次の上り列車で帰りがてら、車内風景を撮影する。
ところで、下の写真、せっかくの風景なのになぜ下を向いているの?と思われたかも知れない。
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せっかく保津川が見渡せるのに下を向いている。
実は床が格子状になっていて透けて見えるのだ。
←写真は2枚あります。画面に触れてみてください。
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実はこの車両、1998(平成10)年に新造された『ザ・リッチ』号(ネーミングはいまいち)で、床がグレーチングのように格子状になっていて、床下が透けて見えるのである。
一番嵯峨野寄りの5号車が、このザ・リッチ号で、トロッコ保津峡からこの車両を狙って乗り込んだわけだ。
車内は少し傾いた陽に照らし出され、穏やかな気持ちのいい空気に包まれていた。
【2003年9月現地、2004年12月記】