古部で、乗ってきたヒゲ付のキハ20形の発車シーンを撮る。
せっかくの青空が、安物レンズのせいで周辺光量が落ちてしまったが、それがかえって、列車を浮き立たせたと、自らをなぐさめている。
その後は、2500形の上下列車を撮り、最後にさきほどのキハ20形が諫早から折り返してくるのを狙う。
あれこれ撮影ポイントを探していると、浜辺に数人のおばちゃんたちがバケツを持って集まってきた。
列車まで時間もあるし、こちらも浜辺に降りて、何をしているのか尋ねると、
「カキを採っているとです」とバケツの中を見せてくれた。確かにそこには小さなカキがいっぱい。
「採っている姿を写真に撮ってもいいですか」
「いやだよう恥ずかしい」
とうつむいてしまう姿がなんともかわいらしい。
「そんなこと言わないで、ね、は〜いこっち向いて」
ようやく顔を上げたおばちゃんをパチリ。
陽は瞬く間に傾き、真っ青だった青空が真っ赤に染まる。
古部駅近くの踏切で、カメラを構えていると、夕陽を背に、キハ20形がシルエットになってやってきたのであった。
これで撮影は終了。夕陽の余韻を残した古部駅のホームで下り列車を待ち、多比良町へ。ここからフェリーで長洲港へ向かったのである。
到着した長洲港は、30年くらい前に来たことはあるのだが、フェリーターミナルの建物は建て替えられたらしく、勝手がわからない。
下船したのは、ほんの数人なので、迷子にならないよう、先頭を行く若い女性の後を追う。
ところが通路はガラスで仕切られた壁で行き止まり、右手のドアには『立入禁止』の張り紙が。
彼女はその前に立ち尽くし、こちらに振り向いて、
「どうしたらいいんでしょう」
えっ?こっちが頼りにしていたのに、と思った瞬間、グィーンという音を立ててガラスの壁が開いた。
「あ、自動ドアだったんですね」彼女が顔を赤くして言う。
そんな恥らう姿がハートをくすぐる。こういうシチュエーションには、からきし弱いのである。
自動ドアを抜けると、今度は階段が分かれ道になっていて、そのどちらにも『タクシー乗り場』と表示され、不親切この上ない。
「タクシーですか?」
「ええ、そうです。どちらなんでしょうね」
「こっちにしましょう」正面の階段は真っ暗なので、左手の階段を下りることにする。これは正解で、無事タクシー乗り場に到着。
「もったいないから、相乗りで行きませんか」
「はい」
という成り行きで、タクシーに2人で乗り込む。
車内で世間話をしながら、頭の中は別のことで一杯。いや、下心といった類のものではなく、タクシー代を持つべきか、割り勘にすべきかずっと迷っていたのである。(くだらない)
結局、変にかっこつけるのはおかしい(それこそ下心)と、彼女に割り勘を提案すると、「もちろんです」との答え。
こうして、タクシーを降り、「はい360円ですね」とにっこり手渡してくれた彼女と別れたのであった。
【2003年10月現地】