大道具・小道具たち その1
『がんばれ!路面電車』の本で、自分なりに暖めていた企画がある。それは路面電車の形式だけを紹介するのではなく、路面電車を支える言わば裏方さんにも目を向けようというものであった。今回の題名である『(路面電車を支える)大道具・小道具たち』も、そのときから考えていたものなのだ。
ところが、ただでさえ限られた時間で、路面電車そのものの取材さえ十分とは言えないのに、裏方さんまでとても手がまわらず、残念ながら本に載せるほどまとめられなかったのが実際である。
そこで、ここで断片的ながら、取材の合間に垣間見た裏方さんの様子を紹介したい。
【大道具】
■架線修理車
少々お待ちを・・・
早起きして6時過ぎに長崎の繁華街、観光通にほど近いホテルを出て、正覚寺下まで歩いたときのこと。黄色い架線修理車が目に入り、慌てて駆け寄ってみた。どうやらトロリーコンタクターの調子が悪いようで、職員が取り外してパコンパコンたたいている。そう書いてしまうと、たたいて直すとは乱暴だなんて誤解されそうであるが、実際はトロコンのスイッチをたたいて、チェックしていたのである。なかなか思うように調整できないようで、電車が1本つかえてしまった。
架線修理車は、他の都市でも何度か見かけたが、実際に作業をしているのを見たのは長崎だけで、苦労して修理していた職員の方には申し訳ないが、まさに早起きは三文の徳であった。
■散水車
「もう廃車になってますよ」
水タンクを積んだ電車があるはず、との問いかけに、トラックを改造した散水車から降り立った鹿児島市交通局の職員が答えた。事前の調べではまだ残っていると書いてある本もあったので、がっかり。
あきらめきれず、庫内を見学させてもらった際に、工場の職員に尋ねてみても、答えは同じだった。車庫の奥にシートをかけられた無蓋車の『花1』を見つけた。かつてはこの電車に水タンクを積んで走っていたのだろう。
考えてみれば、道路も舗装が当たり前になって、自動車の散水車自体も珍しくなったように思う。やはり桜島の火山灰という特別な事情を抱える鹿児島ならではのものなのだろう。
(上)現在は自動車で散水する。
(右)かつて水タンクも積んだ?無蓋車の『花1』
■砂撒車
また長崎でのこと。工場を見学させてもらった際、長崎は坂道が多いから砂まきも大変でしょう、という話になったときだった。
150形を改造した砂撒車
「実は、こんな車両もあるんですよ」と150形に案内された。150形は元王子電気軌道の小型の電車で、ほとんど走ることはないと聞いていた車両だ。促されるまま150形の車内に入ってみると、左右のロングシートが外され、それぞれ白い枡のような器具がついている。これが砂撒器であった。
「どうやって砂をまくんですか」と尋ねると、我が意を得たりとばかり、職員の方が運転席でエアシリンダーのコックを操作する。すると、シュッと弁が開いて床下に砂がまかれるのであった。なるほど!
聞けば、工場での手づくりだそうで、こういう創意工夫が見られるから、現場は大好きなのだ。
さて、大道具はこのくらいにして、続く小道具の話は次回ということで。
【2001年7月記】