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路面電車のイメージ
正直に言うと、私は特別、路面電車のファンというわけではなかった。
これまで、ローカル線がメインで、たまたま乗換えで時間ができたときなどに、路面電車に乗ってみるという程度だったのである。
もちろん、鉄ちゃんとして、レールがあって、車両が走っていれば趣味の対象であることに間違いはない。
路面電車というくらいだから、構造は電車そのものだし、ローカル線と違って、街中なのだから、現地取材もそれほど大変ではなさそうだと思って、駄菓子さんの誘いを受けたのであった。
今年(2000年)初め、なじみのカメラ店で、某大手フィルムメーカーの手帳をもらった。
手帳の冒頭に、『いよいよ20世紀も今年で終わり。・・・今世紀への惜別の思いを込めて、写真に残しておきませんか。消え行く風景や風物、子供の頃に遊んだ川や海など、身近ないいとこ・いいものをたくさん撮って、21世紀のお土産にしてください。』とあり、いくつか参考例が載っている。
もうお分かりだろう、この中で路面電車が取り上げられていたのである。
『路面電車は、21世紀には消え行く運命にある代表的な存在のひとつ。写真におさめて、記録と記憶にとどめておきたいですね。』
このくだりを、けしからんと言うことはできないだろう。私自身、取材を始めるまで、何となく路面電車は『過去のもの』というイメージを持っていた。
ところが、路面電車の現状を調べ始めると、ずいぶん風向きが変わってきていることを知った。
なるほど、もともと鉄道は自動車に比べて環境に優しい交通機関と認識はあったが、同じ鉄道である地下鉄や新交通システムに比べて、上下移動がなくバリアフリーだし、そもそも建設費も安い。そうだ、これからは路面電車を見なおすべきだ、目からうろこの落ちる思いであった。
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旧神戸市電1150形。
(広電本社前にて)
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話が少しそれるが、私の住む神戸では、総延長約8Kmのミニ規格の地下鉄、海岸線を建設中であり、総工費は2400億円。神戸以外の方は沿線のイメージがわかないと思うが、実は交通事情が逼迫しているというより、低迷する下町経済の活性化を目的としている。神戸空港といい、つくれば需要がついてくるという神戸市株式会社ならではの発想である。
批判的な表現になってしまったが、ここで神戸市政の賛否を論じるつもりはない。私自身は神戸経済を活性化するための何らかの投資は必要と思ってはいる。
ただ、海岸線は、市長自ら「空気を運ぶわけにはいかない」と言うように、当初から採算がとれるか懸念がある路線なのである。
公共交通機関は、採算だけで判断するものではなく、沿線住民の利便向上、活性化の観点は必要だろう。でも需要と工事費を勘案したミニ規格でありながら、2400億円も投資するのであれば、それこそ路面電車で良かったのではないか。車線が減って車が渋滞すると言われるかも知れないが、今、地下鉄工事で車線が減っても何とかなっているじゃないか。
なんて、路面電車を調べたおかげで、そんなことを考えるようになった。
でも、私の住む神戸はもちろん、大阪、京都とも路面電車(市電)は車の邪魔だと『過去のもの』にしてしまった。海岸線のルートも、昔の路面電車をほぼなぞる形だ。大方の人が「今さら路面電車なんて」と言うことだろう。
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建設省のパンフレット
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一方で、建設省では『路面電車の活用に向けて』というパンフレットまでつくって、後押しする姿勢をみせている。また、RACDAに代表される市民団体の活動も活発だ。
その結果、各地で路面電車の延伸、あるいは新設が具体的に検討されるようになってきた。これらの動きが現実のものになれば、大方の人達の『過去のもの』との思いも払拭できるだろう。
RACDAの本家本元の岡山での取材時、岡山電軌の方に「延伸が市議会にかかっていよいよですね」と水を向けると、「ここで反対運動などが起きたら、二度と延伸計画は考えられない」と慎重な返事だった。
それだけ、今は路面電車にとって、生死がかかった大事な時期を迎えていると言えるのだろう。
どうも今回は、堅苦しい論文調になってしまった。
【2000年8月記】