趣味の合う話
「フッフッフッ、宮田さん、ネタは上がってんだ、いい加減吐いたらどうだ」
不敵な笑みを浮かべて駄菓子さんは言った。
・・・ハードボイルド調にしたくて、ちょっと脚色が過ぎた(^^;もう一度元に戻して、
「フッフッフッ、宮田さん(ここまでは同じ)、女性の趣味が分かっちゃいましたよ」
原稿の打合せの席で、唐突に駄菓子さんが言った。
「え?」と思った瞬間、取材で撮った写真のネガやポジを、すべて駄菓子さんに渡していたことを思い出し、すっと赤面するのが自分でもわかる。しまった、ついでに(路面電車そっちのけで?)撮った女の子の写真を抜いておくのを忘れてた。
駄菓子さんが続けて言った、
「でもね、私も宮田さんと同じ好みですよ」
そうか、駄菓子さんと趣味は同じだったんだ、いやあ、よかったよかった。(って何が?)
■名鉄揖斐線にて
4月上旬、取材で訪れた名鉄。市内線の終点、忠節駅で数枚写真を撮り、黒野行きの電車に乗り込んだ。
黒野で本揖斐行きの電車に乗換えると、少ない乗客の中にかわいらしい女子高生が一人、ポツンと座っていた。
う〜ん、まさしく私好み【=駄菓子さん好み(^^;】、思わず声をかけてしまった。
一応、断っておくが、私はシャイであるから、たとえ旅先といえども女の子に声をかけるなどということはしない。このときは例外中の例外である。
「写真撮ってもいいですか」
ポッと頬が染まったのを見て、こちらはホッ。
こんな中年男が女子高生に声をかけたら嫌がられるのではと内心ドキドキだったのだ。
でも、ファインダー越しに見る女子高生は表情が固い。そりゃ、誰だっていきなり写真をと言われたら意識してしまうだろう。そこで少し話をしてみる。
忠節駅にて。左が鉄道線用のホーム、
右が軌道線用で段差がついている。
これをおもしろいと思うのは、
やはり鉄ちゃんだけか・・・
「春休みなのに学校なの?」
「ううん、友達のところへ行くところなの」
「古い電車を取材してるんだけど、乗っていてどう思う?」
「明治村みたい」
「アハハ、わざわざ明治村まで行かなくても毎日乗れるわけだね」
「社会見学で行ったけど、おんなじと思った」
やっと、笑顔が見られた。
「その表情いいね」なんていっぱしのカメラマン気取りでまた1枚。
「忠節でも写真を撮ってましたね」
「うん、あの駅はホームに段差があっておもしろいなと思って・・・」
「???」
「いや普通の人はおもしろくもないよね」
思わず鉄道マニア的な発想の言葉を発してしまい、どっと冷や汗をかく。彼女は愛想笑いを浮かべていた。
黒野から終点本揖斐まではほんの10分ほど、束の間のかわいらしい旅の伴侶ともお別れだ。
「今日は突然声をかけてごめんね、ありがとう」
と、それなりにまとめたが、実はこのくだりだけ4月に書いておいたもの。実際の話は、まだ続きがある。
本揖斐で折り返しの電車に座っていると、その女子高生が扉からひょこっと顔をのぞかせ、私を呼ぶではないか。
「え、どうしたの?」と席を立ち、他の乗客の視線を感じながら、何食わぬ顔をして近づいたつもりが、自分でも鼻の下が3mmほど伸びているのがわかる。傍から見たら3cmくらい伸びていたかも知れない(^^;
「せっかくだから、お昼一緒に食べません?」・・・なわけはない(^^;;;
了解をもらってないので、
小さめにご紹介。
「名刺ありませんか?」
ああ、そうだよね。変なことに使われたらいやだもんね。とたんに鼻の下は元に戻って名刺を渡す。
「あ、私、来年この会社に入りたいと思っているんです」
「へえ、そしたら、来年、一緒に仕事ができたらいいね」
お愛想で言ってくれたのかも知れないけれど、笑顔で答えて、再び別れたのであった。
【2000年9月記】