見習いの項で紹介したK駅のFさんは、辞めてしまったけれど、K駅はよほど「F」という姓に縁があるようで、なんと今のK駅の『みどりの窓口』には、同姓のFさんという女性駅員が二人もいる。
最初のFさんに気づいたのは、ある男性駅員にちょっとややこしい(またか)乗車券を頼んだときのこと。
ややこしいと言っても、経由地が複数ある、いわゆる一筆書きの乗車券というだけなのだが、機械の操作に手間取り、だんだんいらいらしてくる。
そんな様子を見かねた女性駅員が後を引き受け、てきぱきと処理してくれた。何という駅員だろうと名札を見ると、Fさん!
う〜ん、かつてのFさんと同姓というだけでなく、手際のよさも同じだなあ、と妙な感心をしたのであった。
ちなみに男性駅員が操作に手間取ったのは、経由地の位置がつかめず、機械と時刻表の路線図をにらめっこしていたからだ。
今の機械は、駅名の頭文字、例えば東京なら「と」と入れれば、ささっと候補駅が並び、その中から選ぶだけのデジタル時代ならではの操作方法だ。
そして発駅と着駅を入力すれば、自動的に乗車券ができあがるのだが、悲しいかな路線図がイメージできないので、経由地を入れたとたんにこんがらがってしまったようだ。
このあたりは前後関係など関係なくピンポイントで引ける電子辞書と同じで、よく言われるデジタル化の弊害かも知れない。
「プロなんだから、路線図くらい頭に入れておけよ」
と文句を言いかけたところで、Fさんに交代したというわけだ。Fさんの処理が早かったのは、もちろん頭の中に、路線図がインプットされていたからに違いない。
さらにレベルの低い話になるが、そもそも頭文字だけで駅名を入力できるということは、正確に駅名が読めなくても発券できてしまうということだ。
もっとも、それも最後にお客さんに切符の確認を求めるときに、ばれるという落ちが待っているのである。
かのK駅でも、他の駅員であるが、肥後大津を「ひごだいづ」と言われ、マイナーな駅だからしかたないかと苦笑いで切符を受け取ったこともある。ただ、「弘前」を「ひろまえ」と言われたときは、さすがに苦笑いでは済ませられず、「ひろさきと読んでよ」と苦言を呈したのであった。
話がそれてしまった。
二人目のFさんに出会った(気づいた)のは、その数日後のこと。別の切符を買った際、ふとカウンターに掲示された名前を見ると、「F」とあってびっくり。
Fさんから交代して、掲示を替えるのを忘れたのかな、と胸の名札を見ても、「F」とある。
でも、先のFさんとは、もちろん全くの別人だ。聞こうか聞くまいか少し迷って尋ねる。
「つかぬことを聞きますが、Fさんて、もう一人いません?」
「はい、確かにFは二人おります」
そうなんだ。調子に乗って「数年前にもFさんていう人がいてね」と言いかけて、さすがにそれはやめた。
つい先日、また切符を買いにみどりの窓口に行くと、その二人目のFさんが担当だ。
ところが、名札を見ると、「え?」名前が違う。
やっぱり前回は名札を見間違えた?いやいや本人もFさんは二人いると言っていたではないか・・・件の男性駅員のように頭の中がパニックになる。
それなら人違いかと、今度こそセクハラと言われそうなくらい、胸の名札と顔を凝視してしまうが、いやFさんに間違いない。ということは・・・。
また迷いに迷って、帰り際に尋ねる。
「あの〜名前が・・・」
「はい、変わりました」
「それはおめでとう、でいいですよね」
「はい、ありがとうございます」
と頬を赤らめて答えてくれた。
やっぱりそうか!よかったよかった。
改めてFさん、結婚おめでとう。
【2010年7月記】