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寄り添うふたり
私はバス通勤をしている。乗車時間は約30分と結構長い。そのかわり始発のバス停から乗るので、座れるのが救いである。(というか、実は、座るために始発のバス停まで2つばかり歩いて戻っているのだ)
夏休み前のこと、2人がけの窓側の席に座っていると、隣に女子高生が腰をかけた。と、身支度する時間もなかったのか、鏡を出して髪をとかしたり、口紅をぬったり、せわしない。ようやく静かになったと思ったら、今度はぐぐっと身体に重みを感じるようになった。どうやら寝入ってしまったようだ。さては前の晩の夜更かしで寝坊して、身支度する間もなく家を飛び出してきたんだな、と思いながらも、シャンプーの香りが鼻をくすぐるのもまあ悪いもんじゃない、とそのままにしていた。もし、これがおっさんだったら、ぐいっと肘で押し返すのはもちろんである。
30分後、終点に着いた。女子高生はもたれかかったままだ。車内は満員なので、下車客で通路はつかえている。今起こしても、どうせ通路には出られないし、そうなると起こしたら何となく気まずくなるかなとも思う。もうしばらく寝かせておこうかと、車内を見渡すと、通路には出られないものの、みな席を立っている。座っているのは私と女子高生だけで、これは傍目に見たら、結構間抜けな光景ではあるまいか。
慌てて、つんつんと肩をつつくと、ようやく目を覚ました女子高生は、「あ、ごめんなさい」と一言言うと、無理やり通路の行列に割り込み、そそくさと下車していったのであった。
それだけのことであるが、改めて、女子高生に肩を寄せられた中年男がぽつんと座っているシーンを思い描くと、自分のことながら思い出し笑いが込み上げてしまうのであった。
【2001年8月記】