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マドンナが神戸の街にやってくる
サンタが街にやってくる季節にちなんで、書きかけのままお蔵入りさせていた原稿を、恥も外聞もなく引っ張りだした。
題名からでもおわかりのように相変わらす女性のこと、おまけにどう考えても自爆原稿なのだが・・・。
もう2年前のことだ。帰宅してパソコンをつけると、「神戸」と題するメールが入っていた。差出人は、おおお!マドンナ!!
マドンナとは、もちろん上田電鉄の項で触れた小学校時代のクラスメイトのことだ。
心躍らせながらマドンナのメールを開くと、近々親御さんとともに、淡路島の親戚を訪ねることになった。その日は新神戸駅近くのホテルに泊まり、翌日、東京に帰るまでの間、観光することにした。ついては神戸のお勧めのスポット、おいしいレストランを紹介してほしい、という内容であった。
小学校時代、ひとりぼっちの私に、優しく声をかけてもらってから約40年、何かお役に立ってお返ししたいと願っていたことがやっと叶う!
もう張り切らないはずがない。
もっとも、オタクな鉄にとって、しゃれたレストランなど無縁の存在だ。そこで会社の若い女子社員にヒアリングして、神戸の観光案内などと合わせ、メールしたのであった。
本音を言うと、ぜひご案内を、と言いたかったが、予定が平日で、本来の用件もプライベートなので遠慮することにした。
そして迎えた当日、やっぱり、せっかくマドンナが神戸に来ているのに、顔も合わせないのはもったいない。晩にホテルのロビーで挨拶だけしよう。それくらいだったら、おかしくないよね、と自分に言い聞かせ、会社の定時後、手みやげを買って、いそいそと新神戸駅へ。
まずはホテルのフロントへ行ってみるが、まだチェックインしていないとのこと。きっと淡路島からは高速バスに違いないと読みを入れて、バス停で待ってみる。
しばらくすると、突然背後から「何してんだ?」と、マドンナとは似ても似つかぬ野太い声がかかり、びくっとして振り向くと、げっ会社の先輩。何の因果か、新幹線での出張帰りに出くわしてしまったのである。
「あ、いえ、東京の同級生が淡路島に行った帰りに神戸に寄るって言うんで、待っているんです」
「なるほど、だから手みやげ持って」
「そ、そうなんですよ。へへへ」
「ご苦労さん、じゃお先に」
「失礼します」
うんうん、嘘はついていない、自分に言い聞かせる。
でも、肝心のマドンナは待てど暮らせど現れない。おそらく先に三ノ宮でバスを降りて、夕食をとっているのだろう。
さすがに足が棒のようで、限界。やむなくホテルのフロントに手みやげを預けて引き上げることにする。
みやげ袋を前に、ホテルマンがうさんくさそうな顔で言う。
「お名前と連絡先を控えさせてください」
そりゃそうだろう、どこの馬の骨ともわからない人間が、ホテルのお客さんに荷物を言付けたいと言うのだから。
言われたとおり、名前と携帯電話の番号を記し、ホテルマンに預け、帰宅したのであった。
その晩、マドンナから連絡があるかも知れないと、ずっと携帯電話が手放せない。まったくもって精神年齢は子供である。
でも、電話はなく、ちょっと気落ちしたまま迎えた翌日の晩、家にかかった電話に出ると、耳に入ってきたのは、おおお!マドンナの生声!!
「今、東京に帰ったところなの、連絡先がわからなくてお礼が遅くなってごめんね」
「携帯の番号を書いたメモを一緒に預けたんだけど」
「そんなものなかったわよ」
そうか、一応個人情報だから、あくまでホテルからの連絡用だけに預かったのだろう。
しばらくマドンナと電話越しに歓談。今日は北野の異人館から有馬温泉まで行ったという。アクティブなマドンナらしい。
10分くらいの会話を終えて、受話器を置く。
実を言うと、それまでメールは旧姓でやりとりしていた。言い訳すると、マドンナの最初のメール自体、差出人が旧姓になっていたのだから、ちょっとずるい。おかげで?すっかり浮き足立って、いささか空回り状態であった。
でも、マドンナとの電話を終えた瞬間、憑き物が落ちたように気分がすっきり晴れ渡る。その後のメールは、現姓でのやりとりとなったのは、もちろんである。