Yさんが転勤したあとも、会社の帰り道ということもあって、週に1〜2回寄り道している。
実はそのタリーズには、ほかにも神戸から異動してきたメンバーが2人いる。
ひとりは、人当たりのいいイケメン店員。もうひとりは、神戸時代、Yさんが応援に来るのでまた来てくださいと言ってきた女性店員だ。
Yさんの転勤後に初めて訪ねたときのこと、そのイケメン店員が心配そうな顔で寄ってきて、
「Yさん、転勤になってしまったんですよ」と言う。
う〜ん、私がYさん目当てで通っていたことは彼にもお見通しだったようだ。そのとおりなのだが、ちょっとかっこ悪いので弁解しておこう。
「○○店だよね」
「あ、ご存じでしたか」彼の表情が緩んだ。
「実はこっちも転勤になってね」
「そうだったんですか」
「ちょうど帰り道になるんで、これからもちょくちょく寄らせてもらうよ」・・・ここが強調ポイント。
「ありがとうございます」
これで少しは私を見る目も変わるだろうか。
先日、その彼がコーヒーをカウンターに出しがてら、「今日から神戸のメンバーが、もう一人増えたんですよ」と言う。
「えっ?誰かな?」
「女の子なんですけどね・・・」
言葉では説明しにくそうなので、答えの続きは促さず、そのまま席に着く。しばらくして、女性店員がひとり、店内のチェックに入ってきた。ああ、彼女か・・・ちょっと意外。
神戸でも比較的新しく入った子で、とても美人なのだが、表情が硬く、線も細いように感じて、長続きしないのでは、という第一印象だったのである。なので、転勤してまで働き続けることが意外に感じられたのだ。
言葉を交わしたこともほとんどなく、名前も知らないので、テーブルを拭いてまわる彼女に声をかけることはしなかった。そんな彼女がこちらを向いた気配に、顔を上げると、
「お久しぶりです」彼女がにっこり笑う。
前言撤回!なんて素敵な笑顔!! 誰だ、愛想がないなんて言っていたやつは。
「こちらこそ久しぶり。今日からだって?」
「そうなんです。今いろいろ教えてもらっているところです」
「神戸の後は、どこの店に行っていたの?」
「実は、しばらく留学していたんですよ」
「へえ、そうだったんだ、学生さん?」
「今年、2回生です」
「いやあ若いね。大学はどこ・・・」
- - -
もしもし、お話し中だけど、もう無駄話はしないと反省したんじゃないの? - - - もう一人の自分が諭す。
いかん、いかん、そうだった。
「これからまたよろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
と会話を打ち切ったのであった。
それでも、また新らしい楽しみができて、寄り道は当分続きそうである。
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