初めてインジケータに●が2つ。つまり鉄道の話題が中心で、その記念すべき題名は『のぞみ10号』
うんうん、いかにも鉄道の話題らしい題名である。
今年(2009年)6月のある休日、所用で新神戸10時21分発の『のぞみ12号』で出かける機会があった。
少し早めに新神戸駅へ着いてしまい、ホームへ上がって発車案内を見ると、まだ2本前の『のぞみ10号』10時10分発と表示されていた。「ほほう、10並びか」
と、次の瞬間、ひらめいた。
10月10日に、のぞみ10号、それも10号車10番にすれば、さらに10が並ぶではないか。
つまり、
10月
10日
10時
10分発のぞみ
10号
10号車
10番。
10が7つも並ぶ特急券を想像するだけで、わくわくしてくる。
これで平成10年ならパーフェクトなんだけど、11年も前のことを言ってもしかたない。そもそも当時の『のぞみ10号』はおそらく違う時刻だったろうし。
それなら、逆に来年は西暦2010年で10が付くから1年待つか?
いやいや、その間のダイヤ改正で時刻が変わりでもしたら、目も当てられない。よって実行は今年しかないとの結論に達したのであった。
しかし、実現までには多くの難題を克服しなければならなかったのである。
まず6番目の10、つまり10号車は、なんとグリーン車である。10並びというだけで買うにはもったいないし、新神戸からどこまでの区間とするかで大きく金額が違ってくるのも、甚だ悩ましいところなのであった。
結局、最短の新大阪では、あまりにみっともないので、京都までとして、エクスプレス予約で2,410円也。同じことを考えている鉄ちゃんに先を越されないように、1ヶ月前の9月10日10時、発売開始と同時に速攻で予約。
次の難題は、その特急券を使うか否かである。
常識的な人は、何でそんなことを悩むのかと疑問に思うだろうが、鉄ちゃんの世界では、記念の切符には手垢をつけず、大切に死蔵するのが常識なのである。
でも、やっぱりせっかくのグリーン券なのだから、乗らなかったらそれこそもったいない。そうなると乗車券が京都往復で2,100円追加だ。
それよりも肝心なことを忘れていた。乗ってしまったら、貴重な10並びの特急券は京都駅の改札で回収されてしまい、手元に残せない。
それなら10番の席は10AからDまで4つあるので、2枚買えばいい?
いやはや、そこまでしたら、もはや何をしているのかわからないので、もう1枚は自由席券1,680円也。
これで京都往復に都合6,190円。なんだかずいぶん阿呆なことをしているような、ん?阿呆!?
そう、かの内田百關謳カも『阿房列車』の中で書かれていたではないか。
「なんにも用事がないけれど、大阪へ行つて来ようと思ふ」
「用事がないのに出かけるのだから、三等や二等には乗りたくない。汽車の中では一等が一番いい。」
百關謳カに背中を押してもらって、「なんにも用事がないけれど、グリーンで京都へ行つて来ようと思ふ」計画を実行に移すことにしたのである。
そして、10月10日を迎えた。
8時過ぎにはエクスプレス予約から確認メールが入る。さあ、いよいよだ。
落ち着かないので早めに家を出て、30分前には新神戸駅に到着。
早速、発券機で
10月
10日
10時
10分発のぞみ
10号
10号車
10番のグリーン券を入手。そしてもう1枚、自由席券を買って、改札に入り、ホームへ。
ホームでは、ボイスレコーダーを用意して、構内アナウンスを録音する。まずは日本語でアナウンスされるが、あとに続く英語の方がはるかにインパクトが大きい。10時10分を「じゅうじじゅっぷん」と発音するより、単純に「テン、テン」と発音する方が強く耳に残るのである。
<英語のアナウンス(一部)は、
こちら(nozomi.mp3)>
そんな録音に気をとられ、写真のほうがおろそかになってしまったが、何はともあれ、10号車のグリーン車に乗り込む。
さあ、
10月
10日
10時
10分発のぞみ
10号
10号車
10番を記録する写真を撮らなきゃ。
あれこれ車内でカメラを向けてみるが、何を撮っても普段の700系と変わらない。だんだん焦ってきて、新大阪までじたばたするが、ふと「10時10分は瞬間でしかないのだから、当たり前じゃないか」と我に返る。
そうなれば、短いグリーン車の旅を楽もう。幸いグリーンの10号車は喫煙車なので、まずは一服。
グリーンパーサーがおしぼりを配りにきたが、「京都で降りますから」と余裕風を吹かせて丁重に断る。
そして、検札が始まったのだが、順番がくる前に京都駅に着いてしまい、やむなく席を立つ。
と、パーサーが駆け寄り、「恐れ入りますが下車の前に、乗車券・特急券を拝見させていただけませんか」と言う。
う〜ん、身なりが悪かったかな。Gパンだし。
もとよりグリーン券には検印してもらい、ちゃんと乗った証拠を残すつもりだったので、逃げる気など毛頭なかったのだが。
パーサーに乗車券と特急券を差し出すと、検印して「ありがとうございました」と返してくれる。その顔は、いささか当てが外れたような表情に見える。そこまで勘ぐっちゃいけないか。
こうして京都駅で下車。一応目的は果たしたので、京都でも散策したいところなのだが、なんとも神戸で用事ができてしまい、昼過ぎには帰らなくてはいけない。まさにとんぼ返り。
次の下りの新快速は11時ちょうどのはず、と発車案内を見ると、おお、次発は10時51分発特急『スーパーはくと5号』ではないか!
一瞬、これで帰ろう、との誘惑に駆られるが、これ以上の無駄遣いはいかんと自分に言い聞かせ、7番線で『スーパーはくと5号』の出発を見送り、新快速が発車する5番線に急いだのであった。
【2009年12月記】
※追記
危惧していたとおり、2010年3月のダイヤ改正で、のぞみ10号の新神戸の発車時刻は9時45分に繰り上がってしまった。