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■ 陸中大橋
実は、陸中大橋を訪れたのは初めてではない。33年前、上有住の大洞鉱山を訪れた後、ここまで足を伸ばしていたのである。
もっとも、そのときの目的は、陸中大橋のオメガループを体験することで、釜石鉱山は訪ねていない。鉱山軌道があることはもちろんわかっていたのだが、あまりに大きな鉱山なので、気後れしてしまったのだ。
鉱山らしさに触れたのは、帰りの列車を待つ間、鉱山住宅を歩いたことくらいであった。今は、その鉱山住宅もすべて取り壊されて、空き地が広がるばかりだ。陸中大橋駅の駅舎もまた同様である。
下に掲げた当時の陸中大橋駅の写真が、他とちょっと違う仕上がりなのは、親のお下がりの二眼レフで撮ったもの(写真は6×6のネガの上下をトリミング)だからだ。廉価で大流行したリコーフレックスである。古いカメラだけに、ご覧のとおりのっぺりとした写りだが、二眼レフのレトロな雰囲気が気に入って、当時持ち歩いていたのであった。
角度は違うが、下の写真が陸中大橋駅前の今の様子。
店舗だったのだろうか、なぜか駅前に1軒だけぽつんと残された独特な形の建物に、寄り添うように岩手県交通のバスが停まっている。
この建物の真後ろに、かつて駅本屋があったのである。右手に桁のようなものが並んでいるが、ホッパーの跡である。昔の写真で、駅本屋の後ろに見えるホッパーの今の姿だ。
当時の『日鉄鉱業釜石鉱業所』の看板と同じ位置に、今は『釜石鉱山』の広告が掲げられている。
『釜石鉱山』は、今や鉱石の採掘ではなく、『仙人秘水』というブランドの天然水の販売が中心だ。
その仙人秘水は、山の上にある古い坑道から引いていて、今でもトロッコがあると聞き及び、いてもたってもいられず、陸中大橋から少し車を走らせ、訪ねてみた。久方ぶりの『軌道めぐり』である。
アポなしの突然の訪問で、お手を煩わせてしまった釜石鉱山の方には、改めてお礼申し上げたい。
レンガ造の550m(標高を表している?)坑口から仙人秘水が引かれている。
ただ、普段は写真右手のパイプで引水しており、トロッコは使用していないとのこと。バッテリーロコと人車。バッテリーロコは、鉱山時代の流用だそうだ。