列車がやってくる時間が近づいたので、ホームの端で待ち構える。目の前を通り過ぎる真っ赤な客車たち、それはいいのだが、なんだかやたら編成が長いぞと思ったら、列車の中間にディーゼル機関車が挟まっている。どうやら2編成をひとつにまとめているようだ。さすが観光シーズンと言うべきなのか、いつもこのような運用なのかはわからない。
列車が到着すると、たくさんの乗客が降り立ち、それまでの静寂が嘘のように活気づく。最後尾のディーゼル機関車の周りにも、たくさんの乗客が集まってきた。ほどなくアプト式機関車が引上線からやってきて、みなが見守る中、無事連結。アプト式機関車のED90形は、ディーゼル機関車より一回りも二回りも大きく、いかにも頼りがいのあるシェルパだ。
早速、機関車の床下を覗き込み、ピニオンギアを探す。う〜ん、どこにあるんだ?
「3番目と4番目の車輪の間ですよ。ほら、ここから見てください」と車掌が声をかけてくれた。そうか、ギアは台車の真ん中に付いているだ(鉄ちゃんとして少し恥ずかしい)。促されるまま覗き込むと、確かにピニオンギアがしっかりラックレールと噛み合っていた。
「さあ、そろそろ発車しますよ」と、また車掌に促されて、客車に乗り込む。真っ赤に塗られた小さな車体は、スイスの登山鉄道を思い起こさせて(と言っても行ったことはないが)、好ましい。
列車はアプトいちしろ駅を出ると、ぐいぐいと90パーミルの勾配を上り、長島ダム駅へと向かう。アプトいちしろ駅の標高が396m、長島ダム駅が485mだから、一気に90mも高度を稼ぐわけだ。