港山駅からは、しばらく伊予鉄道を離れ、港のほうをまわって、三津駅まで歩くことにする。
というのも、地図で、港沿いに小さな造船所がいくつか並んでいるのを見つけ、興味を覚えたのだ。
港山駅を南に下り、車1台がやっと通れるくらいの細い路地を曲がると、その先が造船所だ。
工場の建物は古いものが多く、その中にはたくさんの部品が積まれている。ドッグでは、漁船や250トンクラスの貨物船などが修繕中で、ちょうど昼時とあって、その傍では工員が休憩を取っている。
路地はくねくねと曲がり、工場も雑然として見えてしまうが、実はこういう光景は大好きなのだ。回り道した甲斐があったというもの。
写真も何枚か撮ったが、他人の庭を勝手に撮ったに等しいので、ここでは路地での写真を1枚載せるにとどめよう。
路地も造船所の外れに差し掛かると、観月山公園への登り口がある。
ここを登れば、伊予鉄道の俯瞰撮影ができるかもと、えっちらおっちら登ってみると、公園は一面草ぼうぼう。雑草に埋もれたシーソーなどの遊具は、不気味ですらある。奥まで行けば、伊予鉄道が望めるのかも知れないが、雑草をかき分けてゆくのも気が進まず、敢えなく断念。
後で調べてみると、観月山公園の見どころは、つつじや藤だそうで、この暑い時期にわざわざ登る人もいないのだろう。
再び路地に戻って、歩みを進め、たくさんの小型船が係留された三津浜港の脇を抜けると、三津駅も近い。
ここも、前回訪問時に気に入った駅のひとつであったが、残念なことに今年2月、建替えられてしまった。
ただ、下の写真のとおり、新しい駅舎が、先代の意匠を受け継いでいることがおわかりだろう。
本当は、三津から横河原線へ向かうつもりであったが、高浜〜三津間で思いのほか時間を費やしてしまい、諦める。それでは愛想がないので、6年前の横河原駅の写真でお茶を濁そう。
おまけついでに、右側の写真は、今回行き損なった郡中港駅。
横河原線はあきらめても、最後に行きたい駅があった。
それは郡中線余戸(ようご)駅。朝の郡中線で、この駅だけ、古い駅舎とホームの間に段差がないことに気づいたのである。正確に言うと、ホームが駅舎と前後にずれている、と言葉で表わすより、写真を見れば一目瞭然。
電車を降りて、改札で待ち受ける年配の駅員さん(私服だったので、おそらく嘱託の方だろう)に、「このホームは昔のままですよね」と、早速尋ねてみた。
「そうですよ、坊ちゃん列車のときのままです」
そうなんだ、この足元は明治時代のままなのかと思うと、感慨深いものがある。
「だからこんなに低いんですね」
「ほら、この碍子も古いものだそうですよ」と天井を指す。なるほど、さすがに明治時代のものではないのだろうが、年季を感じさせる碍子が並んでいる。
駅員さんに、「古い駅を維持するのは大変でしょうね」と水を向けると、それだけではなく、美観を損ねないように補修しなければならず、余計に気を遣うそうだ。
帰り際、駅員さんに「またどうぞお越しください」と見送られて、本当にまた訪れたくなる。明治を感じるために。
【2009年6月現地、同年9月記】