転勤してからは、遠距離出張の機会は全くなくなってしまったが、今年6月、久しぶりに東京での会議に出席することになった。おまけに会議は月曜日の午後と、まさに週末から撮り鉄に行けと言わんばかりの日程である。鉄ちゃんのための会議じゃないと、会社のメンバーは、目をむくだろうけど。
なにはともあれ、関東で撮り鉄となれば、昨年、やや消化不良だった関東鉄道常総線を再訪するのは、必然なのであった。
土曜日の午後、神戸を立ち、まず向かったのは昨年も訪ねた寺原〜新取手間の森。前回は早朝の順光狙いのために駅の北側から回ったのであるが、地図を見ると、南側の「とげぬき地蔵尊」付近に踏切がある。今回はそこへ行ってみようと思ったのである。
国道294号線から地蔵尊に至る坂道を上ると、境内は意外に広い。何より手入れが行き届いて気持ちがいい。早速、いつものとおり、お堂のお地蔵様に「お邪魔します」と手を合わせる。
目指す踏切は、お堂から少し進み、小道を左に折れたところにある。警報機もない、いわゆる第4種踏切だ。ただ、踏切の先は、どう見ても民家の庭先で、通り抜けどころか踏切を渡ること自体、逡巡してしまう。そこで、まずは小道の入口から踏切を見下ろすアングルで。
しばらくすると、民家の庭先から、その家の奥さんらしい中年の女性が踏切を渡ってきた。
「お邪魔してます」お地蔵様と同じ挨拶を皮切りに、しばらく立ち話。とても気風のいい女性で、会話が弾む。聞けば、やはり踏切の先が自宅とのこと。
「だからこの踏切は、うち専用なのよ」
「それじゃ立ち入っちゃいけないですね」
「いえいえ、どうぞいい写真を撮っていってください」という言葉に甘えさせてもらうことにする。
「てっきりとげぬき地蔵への参道かと思ったんですが」
「お地蔵さんも含めてこの山全部、うちの地所なの。だから手入れが大変で」
「この山全部ですか!でも、境内も本当にきれいに手入れされてますよね」
「私の手が届く範囲だけね」
「え?おひとりで・・・」思わず絶句。
「もう慣れたものよ。あら、列車が来るようね。ではごゆっくり」
と、奥さんはお堂のほうへ去っていった。
その後、踏切を中心に、とげぬき地蔵尊の境内から何本か撮る。列車は10〜15分ごとにやってくるので、手持ちぶさたになることもない。
17時40分ごろ、3127列車と1120列車が森の中ですれ違う。複線の非電化区間はほとんど例がないので、気動車同士がすれ違うシーンにちょっと興奮。
陽が傾き、空が赤味を増してきた。ここに寄った目的は、その夕陽も狙ってのことなのであった。
下の写真は、列車の側面に夕陽が反射するのを期待したのだが、今ひとつの感。
お堂から帰ってきた奥さんに断って踏切を渡り、そこから夕陽そのものをバックにした撮影を試みる。でも、左手に国道294号線沿いの電柱や看板がごちゃごちゃ入ってしまう。もう少し夕陽が右へ回り込んでくれればいいのだが・・・。
常総線は基本的に南北に走る路線で、もっとも西を向く区間は、ここ新取手周辺しかない。事前に夕陽の沈む方角を調べて、ちょっと厳しいかなと覚悟していたとおりの結果となってしまった。後追い、かつ列車の一部を切り取るアングルなんて、滅多にしないのに、これがもっともましなショットなのである。