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小湊鐵道(後編)
さあ、1週間後、小湊鐵道沿線の桜は満開になっているはず。
もっとも、そうそう都合よく出張は入らない。それより、相変わらず経理のような仕事をしているので、4月上旬は、3月末締の決算処理で忙しく、そもそも会社を離れることなど考えられないはずなのである。
しかし、誘惑に抗しがたく、月曜日の午前中だけ休んで、前日の日曜日から飛行機で往復するという強引な行程を組んでしまった。
羽田から空港バスで五井へ。もはやなじみのレンタカー屋で車を借りて、まずは上総牛久〜上総川間の土手へ行ってみる。
天気は快晴、桜も予想どおり見事な満開で、これ以上望むものはない。
日曜日なので鉄ちゃんの多いことも予想していたが、先客は二人だけ。
「こんにちは!」
「・・・・・」
まあ鉄道撮影は孤独な趣味だ、あまり他人と関わりたくない人もいるだろうから、返事がなくてもしかたがない。いつになく寛容である。これも満開の桜のなせる業か。
その鉄ちゃんは、土手の線路側に三脚を立て、カメラを上に向けてセットしている。なるほど、広角レンズで桜を仰ぎ見て、列車を画面の隅に入れるのだな、と構図が頭の中に浮かぶ。
ただ、そうなるとこちらの撮影位置によっては画面に入ってしまいそうなので、改めて声をかける。
「どのへんで入っちゃいますか?」
「そのあたり」と、ようやく返事は返ってきたが、制約が厳しくどうもアングルが定まらない。諦めて、
「土手の反対から撮りますんで」と再び声をかける。すると、
「そっち行ったら列車が撮れないでしょ」と言われて、変なスイッチが入ってしまった。よ〜し、それなら土手の反対側で絶対モノにしてやる!
と、啖呵は切ったものの、木々の合間から撮った最初の上り列車は、右の写真のとおり、ちょこっとしか写らず、なんだかなあ。
ほどなくしてやってきた下り列車は、2連をちゃんと入れようとアングルを変えたが、今度は桜の陰に隠れすぎてしまった。
この時点で、もう1往復粘ることに決定。満開の桜を愛でながら、1時間強の待ち時間を過ごす。
桜に隠れすぎてしまったのは、斜めに撮ったためとの反省から、今度は真横から狙って、さあどうだ。
2連の気動車が少し切れてしまったが、これでよしとしよう。
写真では列車のすぐ脇で桜が咲いているように見えるが、あくまで桜は土手の上で、窪地を挟んだ小湊鐵道の築堤までは数十メートルの距離がある。
言葉で説明するより、その窪地で撮った次の写真でおわかりだろう。
えっ?あの鉄ちゃんはって?
真横からのアングルで上り列車を撮ってから、のぞいてみると、移動してしまったのか誰もいなかったので、一人心置きなく撮影したものだ。
ただ、思いのほか土手と鉄道の築堤が「ハ」の字に開いているので、少々アングルに困る。
先ほどの鉄ちゃんが、桜を下から広角レンズで見上げるように撮っていたのもわかるような気がする。