プロカメラマンと別れて、しつこく肥後西村駅で撮影を続けるが、これといった成果はなく、昼ごろに切り上げて、おかどめ幸福駅へ向かう。駅近くの岡留熊野座神社の鳥居をくぐり、桜を横目に階段を上ると岡留公園だ。思ったより広くて、家族連れなど大勢でにぎわっている。
その丘の上で、誰かが「お〜い」と手を振って呼んでいる。見れば、さっきのプロカメラマンではないか。「ここから俯瞰で撮るのがお勧めですよ。でも、まだ満開じゃないのか桜の花が少ないなあ」と言われたとおり、構図はばっちりなのだが、桜が少々さみしい。今年は全国的に桜の開花が異常に早く、いわゆる休眠打破がうまく起きずにまだらに咲くケースが多かったという。もしかしたら、ここの桜も同じかも知れない。
勧めてくれた彼は、もう先に撮ったからなのだろう、別の場所で撮ると言い残して去ってしまい、さあ自分はどうするか。せっかくのお勧めの場所であるが、もっと桜に近づくことにして、もう一段、下に降りて撮影。そこへ今度は、カメラを提げた若い男性2人がやってきて、「こんにちは」とお約束の挨拶を交わす。彼らともに、肥後西村で朝に撮った「田園シンフォニー」号の折り返しを狙う。とはいえ、時刻表によれば、往きこそ全席指定の観光列車であるものの、帰りは通常の普通列車扱いのようだ。
その後は撮影場所を探して公園を上ったり下りたり右往左往して、やっと八重桜のたもとに落ち着く。花は半分くらいだが、八重桜は遅咲きのはずだから、こちらは単純にまだ満開を迎えていないだけのようだ。それでも、列車に沿って流れるような雲が気に入って、ここに決めたのである。
待機していると、先ほどの若い男性2人が通りがかった。彼らも撮影ポイントを探しているに違いない。と思ったら、「列車の本数はどれくらいあるんですか?」と尋ねられて、意表を突かれる。
「1時間に1本くらいだけど」
「それは大変ですね」
「撮り鉄じゃないの?」
「いえ、通りがかったら、桜がきれいだったので撮ってみただけなんです」
「そうなの・・・」
ちょっと拍子抜けしてしまう。実はもっと撮り鉄と出会うと思っていたのだが、他にそれらしい姿を見かけない。あのおしどり夫婦同様、撮り鉄はみな、肥薩線の「SL人吉」に吸い寄せられてしまったのだろうか。
撮影場所にいよいよ困り、思い余って桜ではなく菜の花をメインにしてみる。
上の「田園シンフォニー」の折り返し列車の写真右側に見えている菜の花畑だ。
夕方、再び肥後西村駅へ立ち寄る。朝はホーム側からが順光であったが、夕方には反対側へ陽が回るので、駅とは逆の井沢踏切側から上り列車を撮るのが狙いだ。
その前にやってくる下り列車を駅前の桜と無理やり絡めて撮影。逆光で、桜の花がバックと同化してしまったのはやむを得ない。
さあ、目的の上り列車を井沢踏切でどう撮るか。列車を遠めにして桜を多く入れるか、逆に引き付けて、桜は手前の2本のみとするか、迷いに迷う。結局、連写で両方押さえたのであるが、ここでの掲載は、前者の写真を選択した。