■ 春
今年(2015年)は季節の巡りが1〜2週間早い。
とはいえ、何か月も前から組んでいた予定を今さら変更するのは不可能だ。早割で予約していたANAで、懲りもせず訪ねた秋田内陸縦貫鉄道。結果は言うまでもなく、お目当てのソメイヨシノはすべて終わっていたのであった。
大館能代空港から、桜で有名な桂瀬駅へダメもとで行ってみるが、やはりホームの桜は散り果てている。思わずご近所のおばさんに、
「今年の桜は早いですね」と声をかけてしまった。すると、
「早いんじゃなくて、今年はだめだったのよ」とのこと。
聞けば、今年はあまり花をつけなかったそうだ。
「去年はよかったから、来年はきれいになるかも」と言うおばさん。桜にも、表年、裏年があるのかも知れない。
さて、そうなるとどこで撮ろうか。
桜に替わって、駅でひときわ目立つのは、ハナモモ?の真っ赤な花。
ターゲットはこれしかないだろう。あれこれアングルを考えたものの、最後は極めてオーソドックスに、駅のホームから下り11D列車を撮影。
上の写真の右下にも少し写っているように、ホームからは芝桜らしき花が広がっているのが見える。逆光にはなるが、次はそこで撮影することに決める。
写真は、桂瀬駅に到着した110D列車。
発車してまもなく、今時の車両らしい「ヒョン」という短いタイフォンが鳴った。何か障害物かと少し緊張して列車を見ると、運転士が会釈してくれている。そうか、挨拶のタイフォンだと気づき、こちらも手を挙げて応える。お目当ての桜は散ってしまっていたが、気持ちのいいスタートだ。
長閑な桂瀬が気に入って、そのまま居座るが、次の列車まで2時間もある。
このところ寝不足で、往路の機内では飲み物サービスにも気づかず爆睡してしまったのだが、まだ寝足りない。ちょっと車の中で昼寝でもしようとドアを開けると、ものすごい熱気でとても中にはいられない。外気温は30度近かったのではなかろうか。桜も散るはずだ。車内はあきらめて、待合室でうつらうつらしつつ時間をつぶす。
次の列車は下り13Dで、桂瀬駅発13時13分。おや13並びか。ふとアポロ13号を思い出す。確かアポロ13号も、13時13分発車、いや発射だったはず。その後、爆発事故で月面着陸は断念し、命からがら地球へ生還したことは有名で、映画にもなった。当時、アポロフリークだった私は、はらはらしながらテレビのニュースにかじりついていたものだ。
やっぱり13というのは、あまり縁起はよくないかも。と言っても、もちろん13時13分発の13Dは、何事もなく定刻にやってきた。それを先ほどの11D列車と同じハナモモの足下の水仙を入れて撮る。実を言うと、さんざん迷って捨てたはずのアングルなのであるが、結局拾ってしまったわけだ。
肝心の水仙に日が当たらず、暗いのが残念。だからこそ一旦は捨てたのだが、画像ソフトでトーンを上げて修正。おかげでちょっとわざとらしい色合いになっている。こんな事態に備えて、カメラ雑誌の付録についていた折り畳み式の簡易レフ板を持ち歩くようにしようか。
反対側の阿仁前田側には、満開の八重桜が見えるので行ってみる。
そこで今度は散歩中のおばあちゃんと出会い、立ち話。昔あった工場(奥羽無煙炭鉱)のことを懐かしそうに話してくれた。
「ほら、あそこには社宅がたくさん並んどってな」と指さす方向には、雛壇状になった斜面がある。この雛壇はちょっと気になっていて、なぜこんなところを造成したのだろうと思っていたのだが、その疑問が氷解する。
炭鉱の閉山後、周辺はすっかりさびれてしまい、炭鉱で働いていたおばあちゃんの家族も、今はちりぢりだそうだ。さみしい話だが、おばあちゃんの語り口に湿っぽさはなく、語弊はあるが、なんとなくかわいらしくさえ感じる。もっとも、かなり訛があって、半分くらいしか聞き取れなかったのが正直なところ。その中でも、家族が離散したことを「散らかった」と言っていたように思う。この地方の方言なのか、おばあちゃん独特の言い回しなのかは、わからずじまい。
話を桜の撮影に戻そう。狙った桜は踏切近くの坂道沿いにある。踏切や坂道をカットしようといろいろアングルを試すが、どうもしっくりこない。そうなったら下手な小細工はやめて、両方とも入れてしまおう。