東京に前泊した翌朝、始発の「やまびこ」で一ノ関へ。大船渡線に乗り換え気仙沼に到着。大船渡線の終点はまだ先の盛なのであるが、東日本大震災後、BRTというバス路線に転換されてしまったので、また乗り換えである。
気仙沼を出たバスは旧路線上を走り、一駅目の鹿折唐桑(ししおりからくわ)駅を過ぎるとあっさり一般道に入ってしまう。てっきりBRTは線路上を走り続けるものとばかり思っていた。
ここでちょっと言い訳をしておくと、3年ほど前に、かの駄菓子さんが同じルートで旅をしたブログを残している。そこにもちゃんと書いてあるのだが、すっかり忘れていた。そう、言い訳というのは駄菓子さんに対してなのだ。
沿道の印象は、一言でいえば「土色」。海岸部では見渡す限り土地のかさ上げ工事が行われている。一見すると、高度成長時代の山を切り崩した造成地のようだが、ここでは土を盛っているのだ。それも高さ10mくらいの場所もあって、土の量を考えただけでも気が遠くなる。復興と言えるまでには、まだまだ時間がかかりそうなのであった。
陸前高田付近では、有名な「奇跡の一本松」がバスからも望めた。ただ、荒涼とした中、ぽつんと立つ姿はとても淋しそう。早くかさ上げ工事が終わって、周囲に活気が戻ることを祈るばかりだ。
目的の三陸鉄道南リアス線は、終点の盛で接続している。そこでレンタカーを借りて、早速撮り鉄に向かったのだが、行先は三陸鉄道ではなく、まずは岩手開発鉄道へ出かけたのであった。そのときのことは別の機会に。
日も暮れたころ、三陸鉄道の綾里(りょうり)駅から車で5分ほどの「廣洋館」に投宿。滅多に宿の固有名詞は出さないのだが、お気に入りのこの宿は特別だ。
ということで「廣洋館」は初めてではない。7年前の2009年11月、同じように三陸鉄道と岩手開発鉄道の撮り鉄に訪れた際に泊ったことがあったのである。綾里だけに?当時は料理にも力を入れていて、そうとあらば一番豪華な食事を注文したら、鮑などの地元の海の幸がてんこ盛り。酒は飲まないので食事だけで1時間、ひたすら食べ続けものの、もったいないことに少し残してしまった。でも、愛想のいい女将さんから「これだけ食べてもらえれば充分です」と及第点を頂戴したのであった。
もう一度来ようと思いながら、東日本大震災で果たせないまま、7年ぶりの訪問だ。ところが、玄関を入ると、どうも様子が違う。
「勝手が違ってしまって戸惑われたでしょう」フロントからそう声をかけてきたのは、かの女将さんだ。
「そうですよね、前はこんな風ではなかったですよね」
「実は震災後、建て直したんですよ」
外は真っ暗だったので、建物が変わっていることに気づかなかった。
「でも、津波はここまで来なかったのでは?」
ちょっと女将さんの顔が曇って、後の説明は別のスタッフが継いだ。
「建物は大丈夫だったのですが、地盤がだめで」
7年前もリニューアルしたばかりで、きれいな宿であった。それが震災にも耐えたのに、解体せざるを得なくなったときの落胆、悔しさは察するにあまりある。さらに再築には莫大な資金も必要だったはずで、大きな決断であったろう。明るい女将さんが口を閉ざしたくなる気持ちが痛いほど感じられて、こちらも話題を転じたのであった。
新しい館内の案内を受けて、一息ついたのち夕食。前回のようなてんこ盛りではないものの、牡蠣やホヤなど、やはり海の幸づくしで質・量ともに充分。改築後は大浴場もできて、ゆっくりくつろいだのであった。
翌朝、海から昇る朝日を目当てに夜明け前から活動開始。別にやましいことはしていないのに、まだ灯りの点いていない薄暗い宿を出る際、自然と抜き足差し足になってしまう自分がおかしい。
朝日を狙うということは、線路西側から構えることになるが、この付近にはなかなか適当な足場がない。なので当初は隣の恋し浜駅(開業当初は地名由来の「小石浜駅」であったが2009年に改称)まで行ってみるつもりであった。ただ、列車はあっさりトンネルで抜けてしまうものの、車の場合は、リアス式海岸の山越えルートで、行き違いもできない険しい道を行くしかない。そんな山道を夜明け前に走るのは気が進まず、結局、前回宿の近くで見つけた場所に落ち着く。そこからはかろうじて海が望めるのだが、それこそちょっとやましいと言うか、撮り鉄コードすれすれ。というのも、そこはある民家の玄関先なのである。もし、家の人が新聞でも取りに出てきたら、どれだけ気まずいことか。幸い前回、今回とも鉢合わせは回避できて、ほっとしている。
最初の列車は始発の下り201D。ここは構図的に1両入れるのがやっとなのに、まさかの4連で、写真は最後尾のレトロ調車両の36−R3形。事前に調べていた暦では、まだ朝日は昇らないはずであったが水平線の雲の上から顔を出している。岩手県なのでつい盛岡の暦を参照してしまったが、綾里は盛岡よりずっと東だ。その分、日の出が早くなるのは当然だろう。