2003年6月12日の10時過ぎ、ちょこっと会社を抜け出して神戸駅のみどりの窓口に赴く。
ちょうど1ヵ月後の7月12日の夕方から新幹線で小倉に行き、夜行の『ドリームにちりん』で延岡に向かう計画だったのだ。予定はFIXしていたので善は急げとばかり、1ヶ月前の発売と同時に指定券を手に入れようと思ったのである。
夜行ということもあって、奮発してグリーンを窓口に申し込む。
「満席ですね」
「そんな馬鹿な!発売されたばかりなのに」
「そう言われても満席ですから」と駅員はつれない返事。
しかたなく一旦引き下がり、家に帰ってインターネットで確認してみるとやはり満席の表示。何かイベントでもあるのだろうか、ついでに『イベント』『延岡』『宮崎』などと、インターネットで検索してみるが、それらしいものはない。
翌日、あきらめきれずにもう一度インターネットを見ると、かろうじて空席が。すかさず予約したのは言うまでもない。やれやれ、どこかの旅行社が一斉に予約した後、一部キャンセルを入れたのかな、とそのときは思っていた。
そして7月12日当日深夜の小倉駅。『ドリームにちりん』が定刻より少し遅れて入線してきた。満席の理由を確かめようと車内をのぞきこむと、なぜか女性客ばかりで、自由席には立ち客まで出ている。発車間際のアナウンスを聞いても、どうやら自由席には乗り切れない客も出ているようだ。
どういうこと?宮崎って、そんなに女性に人気のあるところだったっけ?
グリーン車も女性客ばかりで、いつもなら、にやけているところだが、こうも多いと逆に落ち着かない。
「・・・1号車は女性専用車です・・・」車内放送が断片的に耳に入った。
1号車はグリーン車と普通車との合造車だから、女性専用というのは普通車のほうだよね、と自分に言い聞かせるが、どうもお尻のあたりがむずむずする。もし、この放送を誤解して、「あんた、女性専用なんだから出て行ってよ」と女性客に文句をつけられたらどうしよう。車掌が検札に来れば疑いは晴れるはずだ、早く来て〜。
頼みの車掌は混雑する自由席の対応で忙しいのか、やって来ない。ただ、幸い女性客からのクレームはなく、それどころか途中駅で徐々に下車してしまい、ついに大分でグリーン車は私ひとりだけになってしまった。
窓からホームを見ると、異様な光景が目に入った。若い女性客が改札を出るため、ぞろぞろ列をなしていたのである。みなMIJと書かれた袋を持っている。こんな夜中に大分で集合するなんて、MIJって一体どんな団体なんだ?
・・・でもMIJって、どこかで聞いたような・・・。MIJ、MIJ・・・そうだ、SMAP!
これですべての謎が解けた。大分や宮崎に用があるんじゃない、博多からの帰り客で混んでいたんだ。自分がこれから『出かける』のだから、みな同じと思い込んでいた。自分の頭が固さと誤解が情けなくて、へなへなと力が抜けてゆく。
ようやく検札にやって来た車掌に尋ねると、案の定、「今日は博多でSMAPのコンサートがあったので、混雑してご迷惑をかけました」と答えが返ってきた。
大分で2時間も停車するので、ぶらぶらとホームを歩いて他の車両の様子を見ると、さっきまでの混雑がうそのようにがらがらである。
考えてみたら、大分着が1時34分、発車が3時33分。夜行列車というより、大分までの終電、大分からの始発という意味合いのほうが強いのだろう。
ここまで女性客に囲まれた緊張と興奮で、まんじりともできなかった。いい加減寝なきゃ。