樽見鉄道 <その2 挨拶編>
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樽見鉄道に何度も通ったのは、天気のせいだと前回書いたが、本当はそれだけではない。
昨年は東京出張が多く、その途中の樽見鉄道には寄りやすかったということもある。例えば日帰り出張の場合、前夜から大垣に入り、翌朝客車列車を撮ってから東京へ向かうというパターンを何回か繰り返したのである。もっとも雨もまた繰り返しであったが・・・。
何度も通った理由はまだある。それはとても居心地がよかったということ。
なぜ居心地がいいのか、今回はそれをテーマに進めていこう。
翌日の東京出張を控えたある日の定時後、神戸から新快速電車に乗り込み、終点米原へ。さらに普通電車に乗り換え、ようやく22時ごろ大垣に到着。ホテルに直行してさっさと寝床に入る。
翌朝、前夜聞いた天気予報が芳しくなかったので、すぐにカーテンを開けてみると、空模様はど〜んより、やっぱりと気分もど〜んより。
とにかく出かけようと6時44分発の列車に乗り、2駅目の横屋へ。ここで大垣行きの客車列車を撮り、歩いて揖斐川まで戻って折り返しの本巣行きを撮る算段なのだ。
客車列車の前に上り列車が1本あるので、駅の近くの畑の横で待ち構えていると、おじいさんが犬の散歩にやってきた。
挨拶しようと思うが、ちょっと迷う。朝早くからこんなところでよそ者が一人ぽつんと立っている姿は、どう考えても怪しい。そんなよそ者が声をかけたら怪訝に思うに違いない。などと躊躇していると、
「おはようございます」おじいさんから先に挨拶されてしまった。
なんとも考えすぎだった。ほっとして「おはようございます」と返す。
大垣行き上り列車が横屋駅に向かう。
薄暗いおかげでシャッタースピードは1/60、絞り開放と限界ぎりぎり。
本命の客車列車は横屋駅で撮るつもりであった。ホームが短いので一番前の客車がはみ出して停車するシーンを撮ろうと思ったのである。
横屋駅に戻りかけると、突然大きな声で「おはようございます」と言われ、驚いて見渡すと、ある民家の庭先にいた奥さんからであった。
もちろん、こちらも大きな声で挨拶する。空はどんよりしているが、気分はとても晴れやかだ。
で、肝心の客車列車であるが、下手なアングルのおかげで、ホームをはみ出していると言葉で説明しないとわからない写真になってしまった。
横屋駅に停車中の客車列車。
注意して見れば、客車前1両がホームから外れているのがおわかりだろう。
折り返しの客車列車を揖斐川で撮ろうと思ったら、あまり時間はない。少し足早に歩き出す。
途中、集団登校の小学生たちに出会う。やはりみな「おはようございます」と挨拶してくれる。
「おはよう、おはよう」と声をかけながら、小学生の列とすれ違う。ますます気分がいい。
中には恥ずかしいのか声が出ない子もいて、集団登校の男子班長が「こら、挨拶しなきゃだめじゃないか」とたしなめたりしている。まあまあ挨拶は強制するものじゃないし、でも、こういう生真面目な子はクラスに一人や二人はいたもんだなあ、なんて遠い日のことを思い出し、一人微笑んでしまう。
そう、この挨拶が居心地のよさの源だったのだ。挨拶ひとつで、初めての土地がまるで既知の土地を訪れたような親近感が生まれる。なんて素晴らしいことだろう。
実際のところ、これが何度も樽見鉄道に通った一番の理由かも知れない。
揖斐川を渡る客車列車。
静かな川面はインクのような色合い。
揖斐川を渡る客車列車を予定どおり撮ったものの、曇り空のおかげで発色の悪い写真となってしまった。でも、あまり気分は落ち込んでいない。また来ればいいさ、と引き上げる。
東大垣駅に着く直前、自転車通学の女子高生が追い越し様、思いもかけず「おはようございます」と挨拶してゆく。慌ててこちらも挨拶する。
う〜ん、やっぱり女子高生はいいねぇ・・・・・
はい、そういう落ちではありませんね。
う〜ん、やっぱり挨拶はいいねぇ、です。失礼しました。
【2003年6月現地、2004年6月記】
<銀杏編につづく>