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夕陽を浴びて、路面電車が豊橋駅に進入する。
駅前のペデストリアンデッキから撮影。
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最近の地方中堅都市の駅はどこもきれいになった。豊橋駅も平成9年に改築されたそうで、新幹線の改札を出ると広く明るいコンコースが印象的だ。
豊橋鉄道市内線を示すサインに従って構外に出ると、人工地盤、いわゆるペデストリアンデッキが広がっていて、最近はやりのストリートミュージッシャンが何組か歌っていたりする。
そんなデッキの下から出ている豊橋鉄道は、東京出張時に途中下車したりして、今回の取材で最も多く訪れた路面電車であった。
途中の競輪場前の電停横にある豊橋鉄道市内線営業所にも数回伺った。営業所という名称から、定期券などの売場かと思わせるが、それだけではなく、本にも書いたとおり、運転士の控室や、列車無線・ポイント制御など運転の中枢を担っている。このため、この競輪場前で運転士が交代したり、料金箱の回収もしている。
営業所では、先ほどまで電車のコントローラーやブレーキを握っていた運転士が、電卓とペンに持ちかえて、「うーん、計算は苦手だ」なんてぼやきながら、売上の計算をしていたりもする。ワンマン電車だからというわけではないが、一人で何役もこなすのは、どこの路面電車も同じようだ。
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競輪場前で小板橋運転士が
乗り込み、いよいよ交替だ。
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本の『がんばれ!女性運転士』の項で、女性運転士、小板橋さんにインタビューしたのも、この営業所であった。本当に楽しいインタビューであったが、その内容は本に書いたとおりなので省いて、その後、小板橋さんの運転する電車に添乗したときのことを。
運動公園前で折り返し待ちのときであった。外国人の二人連れが、数十円だけ料金を入れて、乗りこんできた。すかさず小板橋さんは「ひとり150円ですよ。これでは足りません」と注意している。その外国人は言葉が通じないふり?で、無視して座ってしまった。これはいかん、私からも注意したほうがいいだろうかと腰を上げかける。すると、運転席から小板橋さんが二人の席へやってきて、「ちゃんと150円払ってください」と改めて注意している。さすがの外国人も無視はできず、正規の料金を払っていた。
発車の時間になった。電停のベンチには数人の若い男達が座っている。小板橋さんが「発車しますよ」と声をかけてもにやにやして座ったままだ。しかたなく小板橋さんが扉を閉めようとすると、立ちあがって乗るそぶりをする。慌てて小板橋さんが「乗るんですか」と問うと、またにやにやして座ってしまう。
女性運転士と見て、おちょくっているのは明白で、不愉快この上ない。怒鳴りつけてやろうかとも思うが、こんなところでトラブルを起こしたら、小板橋さんのほうが迷惑だろう。
結局、小板橋さんは男達に数回声をかけた後は、無視して扉を閉めて発車した。
先ほどの外国人といい、こんなことは日常茶飯事ではないだろうが、実際、女性運転士ひとりでは心細いこともあるだろう。でも、そんなことはおくびにも出さず、毅然とした態度の小板橋さんは本当に立派な運転士だ。
そんな小板橋さんの唯一の弱音を聞いた。運転士の休日は土日とは限らないという話をしたとき、思わずこぼした小板橋さんの言葉、「友達なくしちゃう〜」