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3702号の台車。右側の車輪のほうが大きい。
補助線でおわかりのように、軸箱の高さも違う。
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小板橋さんと別れた後は、赤岩口の車庫を訪ねる。営業所でいただいたリーフレットに載っていたレトロ電車の3700形の図面で、車輪径が異なっているのが気になっていたのだ。街中を走る3700形の足元を見ても、よくわからない。工場で確かめさせてもらおうと訪ねたのであった。工場の方に早速確認してみると、
「3700だけではなく、3100もそうですよ」とさらっと言われてしまった。
3100形の実車の横で、「ほら、よく見たら軸箱の高さが違うでしょ」と説明を受けると、なるほどずれている。実際直径600mmと690mmと、たった9センチの差しかないので、うっかりすると見落としてしまうが、このような台車は豊橋鉄道しか残っていないはずだ。
豊橋鉄道でも工場の方に親切に対応してもらって、元都電7000形改造の苦労話など、興味深いことをいろいろ教えていただいた。
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豊橋鉄道でいただいたリーフレットの図面を転載したもの。
車輪の径の違いが、少々大袈裟に表現されている。
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さて、小板橋運転士を困らせた人達のことを書いたが、このままでは、豊橋にはそんな人達ばかりだったかのような印象を与えかねない。それでは豊橋の方に申し訳ないし、本当のところ、豊橋のほのぼのした街の雰囲気が気に入って何度も取材に行ったとも言えるのだ。
そこで、最後にそんな豊橋の街の印象を記すことにしよう。
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競輪場前に停車中の3702号レトロ電車。
乗降客のため、ちゃんと車が手前で停まっている。
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路面電車の写真を撮ろうと、歩道でカメラを構えていたときだった、
「今日はレトロ電車が走る日なんですね」とおばさんに声をかけられた。ひとけのない田舎ならともかく、街中でそんなふうに声をかけられる経験は久しく忘れていた。特に一人旅で声をかけられるのは、ことさら嬉しい。
豊橋の人達の暖かいと言うか、ゆったりとした人柄を表す例は、車の運転でも見られた。
市内線営業所のある競輪場前の電停は、安全地帯がなく、道路から直接電車に乗り込むことになる。すると、車は電車の後ろで当然のように乗降を待っている。
また、車は右折時にはどうしても軌道内に入らざるを得ない。どこの路面電車も右折車がいると警笛を鳴らしたり、気を遣うところであるが、豊橋では一旦軌道内に入った右折車が電車に気がついて、バックするシーンを何回か見かけた。電車の警笛も「どけーっ」というのではなく、どことなく「行きますよ」と穏やかに聞こえるのであった。
【2000年10月記】