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栄光のルマン
もう40年前のこと。当時中学1年だった私が、何かと影響を受けたのがクラスメイトのM君だ。
超音速旅客機のコンコルドが、デモフライトで羽田に来たときも、「一緒に見に行こう」と誘ってくれたり、彼の持ちかけてくる話は興味をそそられることばかりであった。世間知らずの私の好奇心を上手に刺激してくれた彼には、本当に感謝している。
映画『栄光のルマン』に誘ってくれたのも、彼だった。
映画館の名前は忘れてしまったが、封切りではなく、半年遅れくらいの映画を2本立てで安く上映していた。そういう映画館は数多くあったものだが、今はとんと見かけなくなってしまった。
ということで、前回のCoccoの『KOTOKO』に続いて、今回も映画の話題。ネタバレというのも同じなので、そのおつもりで。
『栄光のルマン』という題名は聞いたことがなくても、主演のスティーブ・マックイーンを知らない人はいないだろう。
毎年6月、フランスの田舎町ルマンで、24時間耐久自動車レースが行われる。それを題材に、レース好きのマックイーンがつくった映画なのである。(なんて偉そうに書いているが、当時はルマンどころか、マックイーンでさえ、よく知らなかった)
マックイーンが演じるのは、ポルシェチームのエースドライバー、デラニー。リアリティに徹底してこだわり、他のマックイーンの映画のような派手なアクションシーンはない。とても美しく憂いを帯びたリサ(エルガ・アンデルセン)という女性も絡むが、ラブシーンはない。それで、ラストにデラニーがめでたく優勝を飾るかと思いきや、2位で終わるのだ。
普通の人が観たら、どこがおもしろいの?という映画で、興業的にも失敗だったという。
でも、黙々とレースをこなしていくマックイーンは、掛け値なしにかっこいい。リアリティにこだわっただけあって、ドキュメンタリーのような臨場感も半端ではなかった。
スタート時の緊張感を表した心臓の鼓動も印象的だが、デラニーのポルシェ20番がクラッシュするシーンは、本当に息が止まりそうだった。当時、CGなどあるはずもなく、実物のポルシェがクラッシュするのだから、迫力も本物である。
無惨な姿となったポルシェの運転席で、放心状態のデラニー。脳裏に、事故のシーンがフラッシュバックして、びくっびくっと痙攣する。あまりに生々しくて、観ているこちらも、一緒に身体が震えてしまうのであった。
レース終盤、ポルシェの監督が、リタイアしたデラニーを呼び寄せ、ポルシェの優勝を託し、ポルシェ21番のドライバーと交代させる。
最後の1周、トップのポルシェ22番に、デラニーのライバル、ストーラーが駆るフェラーリ8番が迫る。そこへデラニーのポルシェ21番が割って入り、激しいデッドヒートの末、最後にストーラーをかわして2番手でゴール。
デラニーはストーラーと2番手争いをすることで、結果的にトップのポルシェ22番を援護したわけだ。
自分は2位でも「ポルシェの優勝」を果たしたデラニーが、また渋いのである。
レース後、歩み寄るストーラーに、デラニーがVサインを送る。単なるVサインでは、ピースサインみたいで締まらないのだが、デラニーは、手の甲を外側にして、Vサインをしていた。それがまたかっこいい!
その姿に、M君とふたり、すっかりしびれてしまい、映画を観てからというもの、お互いマックイーンになりきり、挨拶代わりにデラニー式のVサインを交わしていたものだ。
ところが、ずいぶん後になって、手の甲を人に向けて2本指を立てるのは、中指を立てるのと同じく侮辱するゼスチャーだと知って愕然。
言われてみれば、デラニーは、ストーラーに「ざまあみろ」と言っているようにも見える。
ということは、M君とは、毎朝お互い「あっかんべー」と挨拶していたようなもの・・・トホホ。
あのミスタービーンの映画で、アメリカに渡ったビーンが、中指を立てるのが挨拶だと勘違いして、人に会うたびに中指を立てて、怪訝な顔をされるシーンがあった。まさにそれを、M君と私は40年も前に演じていたのだ。
それこそ締まらない落ちになってしまったが、映画を観たおかげで、毎年6月になると、ルマンが気になる。
今年(2012年)は、トヨタと日産が復帰して、特に注目していたのだが、映画以上に派手なクラッシュがあったりして、全車あえなくリタイア。日本勢は惨敗であったが、ここは気を長く待って、来年に期待することにしよう。
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