夜更けのパリ東駅でバスに乗り換え、ホテルへ向かう。これまでは、どちらかと言えば田舎めぐりだったのが、いきなり大都会。
バスの車中、後ろの座席で岡山から参加した新婚の旦那さんが、ぼそっとつぶやいた。
「建物がすごいなあ」
「都会ってこと?東京もこんな感じじゃない?」見目麗しき奥さんが答える。
「いや、そういうことじゃなくて建物の雰囲気がさ・・・」
旦那さんの言いたいことはよくわかる。ビルが並ぶといっても、石造りの古いビルが建ち並ぶ様は東京とは全く違う。車窓からそんなパリの街をながめるだけで、わくわくしてくるのだ。
ホテルはパリ中心部から少し外れたヌイイという閑静な住宅街にあって、雰囲気は悪くない。
ただ、駅まで距離はあるし、晩遅く着いたこともあって、早朝の撮り鉄は省略し、素直に朝食をとってツアーに参加。この日は、ルーブル美術館、ベルサイユ宮殿、セーヌ川クルーズと、まさに王道の観光コースである。
唯一の撮り鉄は、セーヌ川のクルーズ船からエッフェル塔をバックに撮った地下鉄6号線。
ちなみにエッフェル塔は、通常のライトアップだけでなく、20時から5分間だけ、きらきらと光るシャンパンフラッシュが見られる。言葉では表現しにくいのだが、まさにシャンパンのようにはじける輝きに目を奪われる。パリへ行く機会があれば、お見逃しなく。20時だけでなく、21時以降も00分ごとに5分間見られるはずだ。
夕食時、ツアーの家族連れと相席。会話の流れで、
「実は鉄ちゃんなので、早朝に駅で写真を撮ってたんですよ」とカミングアウトすると、
「ああ、それでだったの」とお母さんが納得した様子。
「え?」
「ごめんなさいね、実は私、毎朝どこへ行くんだろうと、ホテルの窓から見ていたんです」
う〜ん、黙ってそんなチェックをしていたとは人が悪い。もし、話をしなかったら、お母さんには不審者のままで終わっていただろう。相席になってよかった。
翌日、ほとんどの団体客は、オプションのモンサンミッシェルへ行ってしまったが、私らも含めて数組だけ残り、自由行動。
本当は、オルセー美術館に行きたかったのだが、その日は間の悪いことに休館日なので、オランジュリー美術館へ。その後は歩いてシテ島のノートルダム寺院って、これまた定番コースである。シテ島には、添乗員お勧めのサンシャペル教会があるので、せっかくだから寄ってみた。なるほど、すばらしいステンドグラスに囲まれて、思わず長居をしてしまった。
ここから流浪の旅が始まる。娘がガイドブックでチェックしていた店に行くつもりが、なんと地図を日本に忘れてきたというのだ。町中でガイドブックを開いていると狙われやすいと聞いて、持ち歩き用に切り離した地図を、あろうことかそのまま置いてきてしまったのである。
逆に手元のガイドブックでわかるのは、店の最寄りの地下鉄駅と住所だけ。ただ、それだけの情報で店を探すのは、日本であっても至難の業だ。もっとも、旅慣れていない娘にとっては、地図は必携、という意識が薄かったのもやむを得まい。
「もう行かなくてもいい」と変なところであきらめのいい娘に対して、意地でも探し出すと促して、歩き回る。
試行錯誤の末、わかってきたのは、バス停が意外に役立つということ。というのも、大きなバス停には、広域の地図と、バス停周辺の細い路地名まで記された2種類の地図が掲示されていたのだ。これを頼りになんとか2軒だけたどりつくことができた。
それでも、ほとほと歩き疲れて、帰りの地下鉄では、寝てはまずいと思いながらも、うつらうつらとしてしまうのであった。
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