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店じまい


 ほんの数日前、会社の後輩と呑みに行ったとき、「本当にホームページは女の人のことばかりですよね」と半ば呆れ顔で言われたばかりなので、とても書きにくいのだが、ここは開き直ってまた女性のこと。今度は回転寿司の女性店員だ。

 近所のある回転寿司のチェーン店が、先月、店じまいしてしまった。
 その店には、年に数回行く程度で常連というほどではなかったのだが、やはり、お気に入りの女性店員Hさんがいたのである。
 ・・・やっぱり女性なら誰でもいいんじゃないの?という後輩の声か聞こえてきそうだが、そうではない。Hさんは、よく気がまわり、とても気持ちのいい店員なのだ。最初のころは、ホール係だったが、そのうちに板場にも入るようになり、がんばっているなと目をかけていたのである。

 もうあと1日で店じまいという日に、これが最後と訪ねてみた。店じまいを控えてか、ベテランの店員ほど、いつもより妙にテンションが高いのが、かえって淋しさを募らせる。
 Hさんも、板場だけでなく、ホールのアルバイトの片づけが遅れがちなのを見て取ると、そちらを手伝ったり、いつも以上に動き回っている。
 一言声をかけたいな、と思っていたのだが、そんな忙しそうな様子を見て、諦める。
 勘定の前に、トイレを済まして出てくると、板場にもホールにもHさんの姿が見えなくなっていた。しかたない、とレジに向かうと、そこにいたのはHさん。直前まで長い列ができていたので、今度はレジの手伝いをしていたようだ。目配りの利くHさんらしい。
「やっぱり明日でおしまいなの?」
「はい。残念ですが」
「次はどこの店へ?」
「いえ、次の店どころか、何も決まっていないんです」
 当然、同じチェーンの別の店に替わるとばかり思っていたのに、予想外の答えに一瞬言葉を失う。こんながんばり屋を解雇してしまうとは、経営者も見る目がない。
「ホールのときから、がんばっていたのに・・・」
「忙しいときに声をかけてもらって、うれしかったのを覚えてます」
「え?」
 何のことか思い出せず、曖昧な笑みを返す。それより、忙しいときに声などかけたら、迷惑なだけだったのでは?
「また、どこかで会いましょう」
「ありがとうございました。お元気で」
 それが最後の挨拶だった。

「あっ」店を出て、思い出した。
 あれは数年前、彼女がまだホール係のころだった。店に入ると、いつもは2人体制のはずのホールが、なぜかHさんだけで、お客がごった返す中、一人で切り盛りしていたのだった。
 席を案内してくれるHさんに尋ねる。
「もうひとりは急に休んじゃったの?ひとりで大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
「がんばってね」
 と声をかけたときの情景が、まざまざと蘇ってきた。
 そうか、Hさんはあのときのことを覚えていてくれたのか・・・。

 一旦はお別れであるが、ドトールコーヒーのTさんと再び出会ったように、Hさんとも再会できるような気がしてならない。
 だから、最後に交わした言葉をもう一度記しておこう、「また、どこかで会いましょう」

【2009年8月記】

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