その後の店は、火の消えたようだ。
Tさんとも、「さみしくなったね」などと話していたのだが、ひと月もしないうちに、そのTさんの姿すら見かけなくなってしまった。さすがに店に尋ねる気もおきない。(後日、やはりTさんは事情で店を辞めたと知り、もしかして自分は疫病神ではないかと少々凹む)
ある日の朝、コーヒーを飲んでいると、女性店員が「すみません」と声をかけてきた。彼女も顔は知っているが、言葉を交わしたことはなかった。
「なんでしょう?」と尋ねると、
「今日の午後、Yが応援で店に来ますので、ぜひまた寄ってください」と言う。
Yさんがお気に入りだったことは、他の店員にもばればれだったと知り、ちょっと恥ずかしい。
それでも素直に夕方、会社の帰りに寄ってみると、確かにカウンターにYさんの姿が。
「応援ご苦労さん!」と声をかけてコーヒーを注文。
「今日のコーヒーはミルクが合うので、用意しましょうか」と彼女が言う。
勧められるままミルクも頼むと、Yさんが、にこにこしながら、いつもの紙コップにミルクを入れて持ってきた。
「どうしたの?嬉しそうな顔して」と問うと、
「今日は上手に泡立ったんです」と言って差し出す。
見れば、確かにミルクの泡がきめ細かい。
「ホントだ。おいしそうだね」と受け取る。
こんな他愛ないやりとりを楽しみに通っていたのだが・・・。
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