2014年9月、いよいよ「てつたび」北条鉄道の放送だ。どんな番組になっているのか、わくわくしながら画面に見入る。
スタートは北条町。この「撮り歩き」も、いろいろ考えたが、やっぱり北条町から攻めた方が収まりがいいのである。
撮影テーマのひとつ「真夏」を探して、最初に下車したのが播磨下里。
画面では、細い路地を歩く中井プロを後ろからカメラが追う。と、「うわっ!すご〜い」と中井プロが歓声をあげる。
「なになに?」と思ったら、ナレーターも同じことを言っている。そして画面に現れたのは、蓮の花。
あ〜っ!ディレクターに紹介した蓮の池じゃないか!!網引駅の切り絵教室で会ったときには何も言っていなかったのに、水くさい。もっとも、その時点では、編集方針は決まっていなかっただろうから、しかたないか。
それにしても、ディレクターにも言ったとおり、蓮の花は見事なのだが、撮り鉄にはちょっと条件が厳しいのである。
果たして、中井プロも「電柱が重なっちゃうなあ・・・」と、うなっている。紹介してはみたものの、やはりここでの撮影は不本意だったかも知れない。結果的に無理強いしてしまったことになり、少々申し訳ない気分。
それでも、「花をとるか背景をとるか・・・花ですな」という中井プロの台詞は、ゆる鉄ならでは。確かに手前の花にピントを合わせれば、遠方の列車だけでなく、電柱やガードレールもぼかすことができて目立たなくなる。馬鹿の一つ覚えで列車ばかりにこだわらず、柔軟に撮らなくてはいけないと思い知らされる。
そして、網引駅の切り絵教室。
あれ? 早々にフェードアウトしたはずなのに、しっかり映っているではないか。でも、その前後のシーンに私の姿はない。つながりがおかしいだろうと一人で突っ込んでしまうが、もしかしたら、編集時点でカットしたらかわいそうだとディレクターが気を遣ったのかも。
その次のシーンも驚いた。ホームでの記念写真の様子がそのまま放映されたのだ。てっきり単なる記念写真と思い込んでいたのだが、ゆる鉄らしい、ほのぼのとした仕上がりに、なるほどと舌を巻く。部外者が一人、写っているけど。
取材の様子を目の当たりにしたこともあって、番組の編集も興味をひくものだった。
口うるさい鉄ちゃんは、別々の日に撮りだめした映像をつなぎ合わせて、あたかも順に回っているように見せているだけだと難癖をつけるかも知れない。
確かにそのとおりで、北条鉄道は、日中、同一車両が行き来するのに、番組に登場する車両は、めまぐるしく変わるので、それだけで別々の日に撮ったことは明らかだ。
網引駅だけでも、切り絵教室だけでなく、様々なシーンを撮っていた。
ここで明かすのもどうかと思うが、サルビアの前ボケ撮影の解説や、地元の人と立ち話をする姿なども収録していたのである。ところが、放映ではそれらのシーンはことごとくカットされ、残ったシーンも時間的に前後しているものがある。それでも、一般人には、シームレスに見えるだろう。その編集の巧みさに、うならざるを得ないのであった。鉄道写真は、もちろん中井プロの撮影だが、編集もさすがプロだけのことはある。
なにより、30分番組の取材に数日かけることが新鮮な驚きだった。中井プロに尋ねると、他の鉄道の取材でも3〜4日は滞在すると平然と答える。プロでも数日かけるのに、日帰りか半日の取材で本を書いていたアマチュアの我が身を振り返り、恥ずかしい思いだ。
番組の締めくくりは、やはり北垣駅長。テーマソングが流れ、
「大事な人が乗っているという思いで、手を振っています」
という北垣駅長のコメントが乗る。これに中井プロが
「ディーゼルカーは軽油で動くのだけど、ああいう人の思いが列車を動かしているんじゃないかって思いますね」と応じる。
おお、中井君もいいこと言うじゃないか、なぜか急に先輩面になって感心する。こうして、番組は、いよいよエンディングロールを迎え、30分と短い時間ながら、楽しいひとときを過ごしたのであった。
築堤下に寝転んで撮影中。運転士が不思議そうにのぞきこんでいる。
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