三陸鉄道/南リアス線の項で触れたとおり、盛でレンタカーを借りて岩手開発鉄道へ出かけたのであるが、実は情けないミスをしていた。レンタカーの営業所は盛駅前の大船渡店と覚えていたはずが、いつのまにか駅名と店名の記憶が合体して大船渡駅前になってしまい、BRTを途中下車してしまったのだ。駅前にそれらしきものが見当たらず、店に電話すると「盛駅ですよ」。そう言われてやっと記憶違いに気づいたのであった。
さすがに次のBRTまで待てないので、土砂降りの中、国道45号線に出てタクシーを拾おうとしても通るのは実車か迎車ばかり。しかたなく車体に書かれた会社名から電話番号を検索して、タクシーを呼び、なんとか盛にたどり着く。料金は1,330円、のっけから余計な出費であった。
時間もロスして列車1往復分は撮り逃したはずだが、何せ雨である、急ぐこともないので、とりあえずいつもの『鬼越えふれあい広場』に落ち着く。
撮影しては車に戻り、暖をとる。車内が冷えてきたらエンジンをかけて暖房入れて、ちっとも地球環境に優しくない・・・ってこのフレーズ、どこかで使った。そう、初めて岩手開発鉄道を訪れた
2009年秋と全く同じ展開なのである。
少しだけ沿線でロケハンした後、翌日の天候の回復を願いつつ、綾里の「廣洋館」へ引き上げたのであった。
翌朝は期待どおりの晴天で、三陸鉄道撮影後、まずは岩手石橋付近へ向かう。このあたりは山の東側を走るので、午前中しか陽が当たらないと考えたからだ。山裾を行く列車を往復1本ずつ撮影したが、どちらもありきたりな出来なので、そのうちの1枚だけ載せておこう。岩手石橋へ向かう115列車だ。
次は来がけに目星をつけていた盛川沿いを走るポイントへ。按配よく川べりに降りられる場所があったので、そこから116列車を撮影。鉱山のある岩手石橋からの列車なので、石灰石を満載している。やっぱりそのほうが絵になる。
そして、近くの有名な撮影ポイントである第一川内踏切へ行くと、先客が一人。千葉から来たという彼はとても気さくな感じで、世間話、いや撮り鉄話に興じる。
しばらくすると、タクシーが踏切にやってきた。こんな狭い踏切に?と怪訝に思いながら道路の端に寄ってやりすごすと、10mほど先のところで停まった。降りてきたのは男性二人。タクシーを借り切って撮り鉄かと思ったものの、二人とも手ぶらで、にこにこしながら近づいてくる。これは怪しい。
男性のひとりが笑顔で「こんにちは」と声をかけてきた。いつもは挨拶を心がけているのだが、さすがに構えてしまい、声も出さずに会釈だけ返す、何者だ?
「NHKのカメラマンです」
「いやあ、それはそれは、初めまして」
とっさに返した手のひらで揉み手せんばかりの愛想笑いを浮かべてご挨拶。よっしゃ、これで
北条鉄道の「てつたび」以来、久しぶりにNHKに出られるかも・・・愛想笑いというより、ほくそ笑んだわけだ。
カメラマン曰く「セメントの原料を運ぶ鉄道は復興というテーマにぴったりでしょう」。ということで、NHK盛岡のローカルニュースで取り上げるそうだ。ただ、今日は取材の下見で、残念ながら出演のチャンスはなかったのである。
「おふたり連れ立って来られたんですか」カメラマンから問われて、「いえ、たまたまここで出会ったんです」と答える。こんなところで「たまたま出会った」というフレーズに興味を覚えたのか、カメラマンから次々質問を受ける。「この鉄道のどこが気に入ったのか」「鉄道仲間では有名な鉄道か」「撮影に適した場所はどこか」などなど。
そうしているうち146列車がやってくる時刻になった。カメラマンとは別れて、本来の撮り鉄モードに。線路左側の標識が気になり、それを避けるために望遠で列車を引き寄せたが、逆に右側の電柱にかかるなど苦しい構図だ。ここはそれこそ開き直って広く撮ったほうがよかったかも知れない。
踏切から反対方向を向き、長安寺で146列車と交換してやってきた117列車をお手軽撮影。
「また、どこかで会うと思いますが」と、ここで千葉の撮り鉄とは別れ、長安寺駅付近へ向かったのであった。