その後はあやめ公園駅に近い野川へ移動。
川岸には桜並木があり、満開だったらきれいだろうなと思う。桜はきっぱりあきらめたはずなのに未練がましい。
そして一旦、長井に引き上げる。列車間隔が空いてしまうのと、天気予報も芳しくないので、先に乗り鉄をこなそうというわけだ。山形鉄道は、国鉄時代を含め、初乗車なので、もちろんロケハンも兼ねてだ。
長井駅も、国鉄時代のままの古風な駅舎で、特にホーム側から見ると、小さな窓が並び、いかにも北国らしい感じがする。地の人には申し訳ないが、最果てに来たという思いにかられる駅舎である。
ホームには、鮮やかなグリーンの『風っこ桜回廊号』が停まっていた。この日は運転日ではないので、試運転だろうか。
10:43発の上り列車でまずは赤湯へ。2両編成の1両から団体客が大勢下車したので、その後に乗ろうとすると、運転士から「すみません、この車両は閉鎖します」とのこと。もう1両もがらがらだし、ワンマン運転には1両の方が都合がいいはずで、素直に運転士の言葉に従う。
赤湯で昼食をとって、今度は一気に荒砥へ。
途中かなり雨が激しくなり、これでは撮影どころではなく、乗り鉄にしてよかったとも言えるのだが、やはり素直には喜べない。
荒砥駅では改札の外にあふれんばかりの観光客が列をなしていて、ぎょっとする。こんなにたくさんの人たちが1両に収まるのだろうか。
5分の折り返しの間に慌ただしく駅舎の写真などを撮ったりして、列車に戻ると、案の定、2両とも満席。しかたなく長井まで立って帰る。
車内では、年輩の車掌が、沿線の観光案内をしている。なかなかの名調子で、車内に観光客の笑い声が広がる。そんなおこぼれにありつけたのも、団体客と乗り合わせたからこそである。
途中、「ほらあの川沿いで薄くピンク色になったところがありますよね、あれはケーオー桜で・・・」と説明する年輩の車掌の声が耳に入った。
そう私も、遠目には桜に見えるのだが、まだつぼみのはずなのに何だろうと気になっていたのだ。思わず耳を澄ませる。
「正月飾りなどで桜が使われることがあるでしょう、その早咲きの桜がケーオー桜なんですよ」と説明が続く。
なるほど、と思ったものの、ケーオー桜とはどんな字を書くのか、慶応桜?KO桜?まさかね・・・。
ただ乗り、いやただ聞きさせてもらっている身では、車掌に尋ねるのもはばかられるので、家に帰ってネット検索してみると「啓翁桜」であった。
長井駅が近づくと、みな下車の準備を始めた。最初に長井駅から乗車したときと同じで、長井〜荒砥間が観光ツアーコースになっているようだ。
下車するのに手間取りそうなので、先に降りようとするが、もう通路は団体客で一杯。それを見た山形鉄道の職員が叫ぶ。
「すみませ〜ん、一般のお客さんを先に通してくださ〜い!」
その一声で、団体客が一斉に私のほうを振り向く。そこにはカメラとカメラバックを提げた中年男が。
みな「一般のお客さん?」と疑惑のまなざしだ。
「お察しの通り、堅気じゃございやせん、鉄でござんす。ささ、お先にどうぞ」ということで、最後に下車。