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古町車庫にて。高浜線を挟んで
右側に鉄道線用の車庫がある。
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古町車庫の事務所で若い職員に来意を告げると、「班長の許可があれば」ということで、一緒に車庫にゆくと残念ながら不在。若い職員も、部外者を庫内まで連れてきてしまったものの、なす術もなく固まっている。そんな姿を見ると、こちらも強いことは言えず、さて、どうしたものかと思案していると、古町駅から回送電車が入ってきた。それを見て、若い職員がほっとした顔で叫んだ、「あ、班長が帰ってきました」
電車から降り立った班長を呼び止める。
「あ、あの、す、少しお話を伺いたいんですが・・・」
学生時代は恥も外聞もなく現場に入り込んでいたが、さすがにこの歳になると、かえって緊張して自分でもおかしいくらい声がうわずっていた。
でも、班長さんは、しどろもどろの質問に嫌な顔どころか、にこやかにてきぱきと答えてくれる。
「鉄道線と一緒に整備されているから、共通に使える部品などはあるのですか」
「いやいやそれはないねえ、軌道線だけでも電車の形がそれぞれ違うから、共通するのはワンマン用の料金箱ぐらいですよ」
「整備で何が一番大変ですか」
「直巻直流モーターはやっぱり手がかかりますね」
班長さん自身でわからないことは部下に尋ねてくれていたが、部下の答え方を見てもチームワークのよさが伝わってくる。体格のいい班長さんは見るからに頼りがいがあり、お世辞ではなく、みなに慕われているからだろう。
班長さんとは20分ほどの会話であったが、気持ちのいいインタビューだった。
昼休みになったので、みな昼食をとりに事務所に戻る。班長さんから
「私らは食事をとってきますけど、どうぞご自由に見学してください。ただ、車庫の真ん中を本線が通ってますから、くれぐれも気をつけて」
そう、ここ古町の車庫は高浜線を挟んで、軌道線用と鉄道線用に分かれているのだった。
軌道線の車庫をひととおり見学して、鉄道線側の車庫に留置されているモニ30、31を見にゆく。
「右よし、左よし」ちゃんと指差確認して高浜線を渡ったのはもちろんである。
まずはもう何年も走っていないという花電車用の単車モニ31。台車にブリルの銘を見つけて小躍りして写真を撮り、ノートに拓本もとった。ふとレールを見ると、1903年カーネギーとある。カーネギーのレールに乗ったブリル台車、このまま博物館に展示されていてもおかしくない。まさに日本の鉄道史の生き証人が、車庫の片隅にひっそりと残っている姿は、なんとも感慨深いものであった。
一方のモニ30は、数年前まで庫内の入替えに使われていたものだ。いかにもマニア好みのスタイルが目をひく。おそらく保存という意味が強いのだろう、これまたレトロな2軸客車と仲良くならんで停まっていた。
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ブリル台車をはいたモニ31
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好ましいスタイルのモニ30
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ぽつぽつと雨が降ってきた。そろそろ潮時か、と班長さんたちが休憩している事務所に戻る。何かお礼をしたいな、と思うが、あいにく手ぶらで来てしまった。ふと車庫の筋向いの店先に自動販売機を見つけ、そうだ食後のコーヒーでも届けようと、こそっと一旦車庫を出て、5〜6本購入して事務所へ。
「これ、みなさんで飲んでください」
「そんな気を使わんといてください」
「いえいえ、せめてものお礼です。どうもありがとうございました」