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店長
当然、今回は5月21日の金環日食の話題、と言いたいところだが、残念なことに部分日食しか見られなかったので省略。
というのも、転勤後は朝7時すぎには出勤しているので、職場でじっくり観察できるはずが、兵庫県では明石より西の地域では、金環日食のエリアから外れていたのだ。それでも、職場のみんなとわいわい言いながら観測するのも、いいものであった。
それで、本題の「店長」である。相変わらずの内容で、いよいよ気が引けるが、続けよう。
転勤後は車通勤で、片道40キロ近い道のりを、往きこそ時間の関係で高速を使うが、帰りは地道を、その日の気分でコースを変えて通っている。
そこで、ふと気がついた。あのタリーズのYさんの転勤先も神戸の西のほうだった。カーナビで調べてみると、数キロ遠回りになるが、40キロから比べたら誤差の範囲だ。
と、自ら言い訳して、ある日の帰り、寄ってみた。
しかし、Yさんの姿はなく、飲み終えたカップを返そうと席を立つと、控室から出てきたショートカットの女性店員と目が合った。ん?Yさん?
「あ〜!来てくださったんですね」
「やっぱりYさん! 髪がショートになってわからなかったよ」
こういう言い方をすると、「じゃあ前はどうだったの?」とやぶ蛇になるのだが、髪型だけでなく、本当にかわいらしくなって、見違えたのである。
この店は、ブランド店ばかりの商業施設の一角にあり、神戸の店とは客層も違って、私自身、場違いに感じてしまう。そういう環境で、Yさんもいい意味で染まったのだろう。
「でも、神戸のような常連さんもいなくて、お客さんとお話することはほとんどないんですよ」というYさんは、少しさみしげだ。
「じゃ、俺が話し相手になるよ」
なんて調子に乗って、しばしYさんとおしゃべり。タリーズが好きで入社したこと、早く店長になりたいなど、Yさんらしい前向きな言葉に耳を傾ける。
これで、会社の帰りに寄り道する楽しみができた。そう思って、寄り道すること3回目、Yさんが「実はまた転勤になったんです」と言う。頭の中を『疫病神』という文字が駆け巡るが、それはいったん横に置いて、
「いよいよ店長?」
「いえ、違うんです」とちょっと残念そう。
上司からは、まだ接客の言葉遣いがなっていないので、他の店でもっと勉強するように言われたそうだ。
「いやいや、気さくなところがいいところだよ。だから神戸では常連さんがたくさんついたんじゃない」
う〜ん、この会話、かつての『みどりの窓口』のFさんと同じ展開じゃないか。
「でも、そういうお客さんばかりじゃないでしょうから」
とYさんに言われて、はっと我に返る。
タリーズにしても『みどりの窓口』にしても、大切なのは不特定多数のお客さんで、特定の客ではない。店員と常連客が、ぺちゃくちゃおしゃべりしていたら、他のお客さんは不快に感じるだろう。おしゃべりしたいなら、スナックにでも行けばいいのである。それをわきまえないから疫病神になってしまうのだ。反省すべきはこちらであった。
Yさんの転勤先は、神戸の繁華街にある店で、とても特定の客を相手にする暇はないはずだ。数をさばくことに慣れるよう、上司が計ったのだろう。
「店長になりたいとばかり言ってましたが、やっぱりもっと経験したほうがいいように思えてきました。店長は数字の責任もありますし」とYさんが言う。
Yさんの心も揺れているようだ。でも、まだ若いYさんだ、いろいろ悩んで成長する時間は十分にある。
■ ■ ■
その数日後、元の職場での会議に出席するため、神戸駅に降り立つ。少し早めに着いたので、久しぶりのドトールへ寄ってみた。カウンターには折りよくお気に入りのTさんが入っている。「おはよう」と挨拶して、ふと名札に目をやると、そこには「店長」の肩書きが。
「ああ!いつのまにか店長になっとぉやん!」思わず下手な神戸弁で叫ぶ。
「えへへ、また戻っちゃいました」Tさんが照れ笑いを浮かべる。そこに初めて店長になったときの気負いはない。
でも、店長復帰は素直に嬉しい。おかげでその日は本当に気分のいい1日だった。
なんとなくYさんの姿が、10年前のTさんとだぶる。
同じようにがんばっているYさんも、じき店長になって、立派にこなせるさ。Tさんの店長復帰を見抜いた私が言うのだから間違いない。
寄り道のつづき